第23話 選択肢

 会議室は、やけに静かだった。


 怪異専門協会の役員が三人。


 書類の山。湯気の抜けたコーヒー。

 

 珠音は、立っても座ってもいない様な位置に居た。


「例のマニュアルについて、ご意見を伺いたいとの事でしたね」

 

 誰も返事をしない。最年長の男が、咳払いを一つした。


「問題は……成果が出ている事かな?怪異は減っているが」


「はい」

 

 珠音は頷くだけだ。


「しかし、現場からの反発も強い」


「はい」


「責任の所在が曖昧だという声もある」


「そうですね」

 

 肯定も否定もしていない。事実だけが、机の上に並ぶ。


「継続する場合ですが」

 

 珠音は一枚、紙を指で押さえた。


「被害者の切り捨てを明文化した以上、今後の再発案件は想定内になります。責任者は、どなたになりますか?」

 

 役員たちは、顔を見合わせた。


「……それは、運用で」


「運用ですと、文書と現場判断が乖離します。その場合、現場の独断になりますが」

 

 誰も「問題ない」と言えない。


「修正する場合」

 

 珠音は次の紙に移る。


「これまでの成果は、誤った指針による偶発的成功だった、という説明が必要です。公表しますか?それとも内部処理で?」


 沈黙。


「責任者を置く場合」

 

 次。


「判断基準を統一出来ます。ただし、その方が全案件に目を通す必要があります。年間、百三十件前後です」

 

 誰も手を挙げない。


「現行維持の場合」

 

 最後。


「現場の疲弊が進みます。離脱者が出た場合、協会外で独自活動を始める可能性もありますが」

 

 珠音は、そこで口を閉じた。全て説明した。

 

 だが、結論だけが無い。


「……では」

 

 静かな声。


「どれで進めますか?」


 沈黙が包む。


 やがて、若い役員が耐え切れずに言った。


「一度……取り下げるしか……」

 

 言った瞬間、自分の言葉に驚いた様な顔をする。

 

 珠音は、その顔を見てから頷いた。


「そう判断されるなら」

 

 それだけだった。誰も反論しない。

 

 誰も責任を押し付けられた気がしない。

 

 会議は「合意の上」で終わった。

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