第5話 善行キャンペーン
校門前に、派手な横断幕が張られていた。
『みんなで善行キャンペーン!』
朝の挨拶運動。募金箱。困っている人に声を掛けよう週間。
珠音は、立ち止まらなかった。
「珠音ちゃん、参加しないの?」
委員の子が、少し困った顔で言う。
「必要ありません」
「え……でも、良いことだよ?」
珠音は足を止め、横断幕を見る。風に揺れる文字は、やけに軽かった。
「これは善行ではありません」
「どうして?」
「期限があるからです」
委員の子は、意味が分からないという顔をした。
その日の昼休み。
校庭の隅で、低学年の子が泣いていた。キャンペーンの腕章を付けた上級生が、遠巻きに見ている。
「どうしたの?」
「転んだ……」
「先生呼ぶ?」
上級生は、誰も動かない。珠音は無言で近づき、ハンカチを出した。
傷口を押さえ、保健室へ連れて行く。
その途中、言われた。
「えらいね!善行キャンペーンだもんね!」
珠音は首を振る。
「違います」
「え?」
「これは今日で終わりません」
放課後。
キャンペーンの反省会が開かれていた。
「珠音ちゃん、結局参加してくれなかったわね」
教師の言葉に、珠音は静かに答える。
「善行は、誰かが決める物ではありません」
教室が静まる。
「自分自身で決める物です。期限を言い訳にした善悪に最初から責任はありません」
誰も反論できなかった。
翌日。横断幕は外され、腕章も消え、善悪の判断も変わった。それでも珠音は、昨日と同じように歩き、昨日と同じように手を伸ばした。
困る人はキャンペーンでは消えないからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます