第10話 禁句
剛力事務所に入った依頼は、珍しく被害報告が曖昧だった。
「怪異は居るらしいんですが……危害は無くて……」
歯切れの悪い説明に、珠音は嫌な予感を覚える。現場は学校近くの通学路だった。
四人が通ると、どこからか柔らかい声が響く。
『大丈夫ですよ』
「うわ、出た」
部長が身構えた瞬間、空気が一変した。背中に、何かが張り付く感覚がした。
「……部長、動かないで下さい」
「え?でも今『大丈夫』って……」
「アウトです」
三人組が青ざめる中、珠音は一歩前に出た。
「確認します。この怪異、直接的な害は出していませんね」
「え?あ、はい……」
被害報告を見てアッキーが答える。
『私は人を助けたいだけです』
声は優しく、安心させる調子だったが珠音は「では質問を変えます」と言う。
珠音は視線を逸らさない。
「あなたが助けた後、起きた事に責任を取っていますか?」
一瞬、沈黙が包んだ。
『……私は、安心を与えているだけで……』
「『大丈夫』『気にしない』『まあいいか』」
珠音は淡々と続ける。
「全部、思考を止める言葉です」
ブータンが小声で呟く。
「禁句だ……」
「事故は消えません。移動するだけです」
『私は善意だ!』
「善意は、免罪符ではありません」
珠音は札を取り出すが、すぐには貼らない。
「最後に聞きます……あなたは、人が考える事が嫌いですね?」
怪異は「それでも人は安心したがる」と答えた。その瞬間、札が貼られ空気が元に戻る。部長は膝から崩れ落ちた。
「助かった……」
「終わりです」
珠音は静かに言った。
帰り道。
「今日は、楽勝でしたね!」
「いいえ」
三人が振り返る。
「ですが、事故は減りました」
部長が「大丈夫…」と言いかけて、アッキーとブータンに同時に口を塞がれる。札を貼った直後に……
「今のもアウトですか?」
「今のはセーフです」
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