第4話 綺麗なビルの豚と、僕のなかの三割のジャスティス
「頑張り次第で」という言葉を、僕は心の中にある「ゴミ箱という名の異次元」に放り投げた。
面接室を出ると、そこは大阪の都心部。窓の外には、都会の喧騒が「自分たちは重要だ」という顔をして流れている。
このビルは、やたらと綺麗だった。
床のタイルは、舐めたらたぶん高級なミントの味がする。
すれ違う女性社員たちは、みんな「クオリティが高い」というタグが背中に付いているかのように洗練されていた。彼女たちは、僕のような「100万の欠落」を抱えた男の横を、無機質な風のように通り過ぎていく。
最後に、受付にいたあの「ふくよかな豚」――いや、失礼。
接客対応をしてくれた、ふくよかな女性に目をやった。
彼女の動きは、どこか「丁寧な重機」を彷彿とさせた。
僕は、この綺麗なビルに、何か僕の生きた証を残しておきたいという衝動に駆られた。
僕は、ポケットの中に隠し持っていた「三割のプライド」を、そっと指先で転がした。
そして、受付カウンターの端に、持っていた予備の履歴書を「折り鶴」ではなく、**「羽ばたこうとしている途中の、でも諦めたセミ」**の形に折って、こっそり置いてきた。
それが、僕のこの会社に対する、最大限のアンサーだ。
ビルを出ると、大阪の熱気が僕の三割のプライドをじりじりと炙る。
帰り道。
僕は、御堂筋のど真ん中で立ち止まった。
「もし、この街のビルが全部、巨大なウエハースでできていたら」
という考えが、脳内のポテンヒットとして飛んできた。
雨が降ったら、街全体がベタベタになって、みんな「頑張り次第」なんて言っている余裕はなくなるはずだ。
スマホが震える。またアイツだ。情報のウーバーイーツ。
『お疲れ(笑)部長がさ、ハサミでネクタイ切るときに、間違えて自分のワイシャツのボタンまで飛ばしたらしいよ。今、安全ピンで止めてるって(笑)』
安全ピン。
あの白髪部長には、それがお似合いだ。
安全じゃない人生を歩んでいる僕に、安全ピンの情報なんて届けるな。
僕は歩道橋の上から、流れる車を眺めた。
年収500万。
それは、僕が「人間として、ギリギリスキップをしても許される金額」だ。
400万でヘコヘコして、汗をかいて、白髪とヘラヘラに魂を売るくらいなら、僕は一生、この歩道橋の上で「見えない交通量調査」をしていた方がマシだ。
僕は、右足の靴紐を少しだけきつく結び直した。
「二度と解けない」ほどではないけれど、僕の決意が「カクン」と音を立てるくらいには。
次は、駅の地下街で、**「500万円分の幸せが詰まったコロッケ」**を探しに行くことにした。
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