第7話:リード

​​ 「おい蓮、今のトス、あと5センチ低く、10センチ奥だ」

 「注文が多いな……。じゃぁ、これならどうだ!」

​ 昼休みの体育館。碧斗と蓮は、二人きりで「超速」のシンクロを確認していた。

 ボクシングで培われた蓮のアームコントロールは、驚異的な速度でバレーのセットアップに適応し始めていた。蓮が放つ鋭いパスが、碧斗の跳躍の最高到達点へ、最短距離の放物線を描いて突き刺さる。

​ (ドッ!!)

​ 碧斗が腕を振り抜こうとした、その瞬間だった。


​ 「――甘いね」

​ 横から飛び出してきた「大きな影」が、碧斗の視界を遮った。

 長い腕が壁のようにそびえ立ち、碧斗が放つはずだったスパイクを、空中で無慈悲に叩き落とした。

​ (バチッ ズドンッ!!)

​ ボールは碧斗側のコートの真下に突き刺さり、体育館に乾いた音を響かせた。

 着地した碧斗と蓮が目を剥く。そこに立っていたのは、バレー部の見慣れた顔ではない。

バスケットボール部のジャージを着た、ひょろりと背の高い一年生だった。

​ 「……バスケ部のルーキー、高城(たかぎ)か?」

 蓮が忌々しそうに眉を歪め、その名を呼んだ。中学バスケ界で「鉄壁」と呼ばれた天才ディフェンダーだ。蓮と同じ中学で、互いにユースの功績で学校表彰された顔見知りだ。


​ 「悪い。隣のコートからボールが流れてきてさ。……でも、そんな派手なジャンプしても、コースがバレバレだよ。空中で止まってる間に、どこに打つか全部『視えた』」

​ 高城は退屈そうにアクビをしながら、ボールを碧斗へ放り返した。

 未完成とはいえ、碧斗と蓮の超速コンビネーションを初見で、しかも一人で叩き落としたその反応速度、そして何より相手の動きを先読みする「リード(分析)」のセンスは一見してわかった。


​ 碧斗の脳内で、システムが警告音を報じていた。

​ 『対象の個体情報を解析……適正ポジション:ミドルブロッカー』

 『特殊能力:【静止した眼(フリーズ・ゲイズ)】を確認』


​ 「……高城。お前、バスケで満足してるのか?」

 碧斗の問いに、高城は足を止めた。

​ 「バスケは点を取り合うスポーツだ。でもお前、点を入れることより『相手の絶望する顔を見る』ことの方が好きだろ。さっき俺のスパイクを止めた時、憎たらしい良い顔をしてたぜ」

​ 碧斗のカマかけに、高城の表情が一瞬だけ強張った。図星だった。

 

 「俺たち城南バレー部には、いま盾が足りない。お前のその『リード』があれば、どんなにデカい相手も完封できる。……どうだ、ゴールを狙う退屈な作業は辞めて、俺たちと一緒に『最強の壁』を作らないか?」

​ 「……ハッ。勧誘? 悪いけど、バレーなんて興味ないんだよね。ネット越しにピョンピョン飛んでるだけだろ?何が楽しいんだ?」

​ 「ふーん……興味がないなら、もう一度止めてみろ」


 碧斗は蓮にアイコンタクトを送った。

​ 「蓮、さっきのよりさらに15センチ奥だ。……こいつの『眼』をぶっちぎるぞ」

​ 「……OK! 鼻っ柱をへし折ってやる」

​ 再び始まる、ネット越しの「ワンオンワン」

 最強の矛、最速の盾、そしてそれを見透かす眼。

 春高出場に必要な最後のピース、「守護神」のスキルが牙を剥く。

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