第8話:オープン

​​ 「一度でも止められなかったら、俺の負けでいいよ」

 高城は不敵に笑い、ネットの向こう側で長い腕を構えた。バスケで培われた「リード(予測)」の精度は、碧斗たちの超速コンビをも捉えようとしていた。


​ 「蓮、速さは捨てろ。……高く、一番高いところへ上げろ」

 「……本気か? 碧斗。あいつの高さに正面から付き合うのかよ」

 「ああ。こいつの得意分野で、完璧に粉砕する」

​ 碧斗の指示に、蓮は一瞬目を見開いたが、すぐに口角を上げた。


 放たれたのは、これまでの「超速」とは真逆の、ゆっくりと大きな弧を描く――オープントス。

​ 「ハッ、そんな山なりのボール、ただの餌食だよ!」

 高城は確信を持って踏み込んだ。滞空時間の長い碧斗のスパイクに合わせ、ドンピシャのタイミングで、最高到達点まで腕を伸ばす。高城の大きな手のひらはネットをはるかに超え、アンテナの先端に届く勢いで、碧斗のスパイクの軌道を完全に塞いだ。


​ (チェックメイトだ)

 高城がそう確信した瞬間、空中で碧斗の体が「さらに」跳ね上がった。

​ 固有スキル:【空位の支配者(エア・ルーラー)】二段階解放。

​ 「な……っ!?」

 高城の視界から、ネット越しに見下ろしていた碧斗の顔が消えた。

 自分よりもさらに高い、別次元の高度。碧斗は高城の指先を見下ろしながら、溜めに溜めた右腕を振り抜いた。

​ (ダッッッッッバァァァァンッ!!!!)

​ 高城のブロックの上を通過したボールが、コートの奥深くに突き刺さる。体育館全体が振動し、遅れて爆鳴が耳を打つ。

​ 「た……高さで、俺が……負けた……?」

 着地した高城は、自分の両手を見つめて立ち尽くした。

 バスケ部でも、自分より高い奴はいなかった。ましてや、バレーのネット越しに「見下ろされる」感覚なんて、生まれて初めてだった。


​ 「高城。お前の『リード』は完璧だった。だが、お前が封じたのはあくまで『今までの常識』だ」

 碧斗は呼吸を整え、呆然とする高城に歩み寄った。


​ 「バレーは、コートで一番高い場所を取った奴が最強なんだ。お前のそのリーチとセンス、ゴールを守るためだけに使うのは勿体ない。……空中の支配権を、俺と取り合ってみないか?」

​ 高城は胸の奥で、経験したことのない熱い何かが灯るのがわかった。

 屈辱。敗北感。そして――それを塗りつぶすほどの、強烈な昂揚感。

 ネット越しに叩きつけられた衝撃は、彼の退屈な日常を、鮮やかな色に塗り替えていた。


​ 「……ふっ、あははは! なんだよそれ。反則だろ、今の!!」

 高城は笑い出した。腹の底から、楽しさが込み上げてくる。

​ 「いいよ。認めてやる。……バレーボールって、こんなにゾクゾクするスポーツだったんだな。俺のリードで、次からはお前以外の全員を絶望させてやるよ」

​ 高城が差し出した長い手を、碧斗は強く握り返した。

 最強の矛、最速のセッター、そして鉄壁の盾。

 城南高校という未完成の「レセプション」に、ついに牙を剥く準備が整った。

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