第4話:アナリシス
「春高を目指す」
そう宣言した翌日、城南高校のコートには異様な緊張感が漂っていた。部長の直人が持ってきたのは、書き殴られた「地獄の特訓メニュー」。
とにかく走り込み、とにかく打つ。昭和のスポ根を地で行くような、直人なりの決意の表れだった。
「……こんなの無理だよ」
「俺たち、ただの人数合わせだし……」
昨日ボコボコに負けた部員たちは、その殺人的なメニューを見て、逃げ出す口実を探すように顔を見合わせた。だが、その空気を切り裂いたのは碧斗だった。
(ビリッ、ビリビリッ!!)
碧斗は直人のメニューを無造作に破り捨て、ゴミ箱に放り込んだ。
「おい、碧斗!? 何するんだよ!」
「直人、お前の熱意は認めるが、効率が最悪だ。バレーは『頑張った奴』が勝つんじゃない。考え続け『対応した奴』が勝つスポーツだ。考えろ、そして直ぐに行動しろ」
碧斗が代わりにホワイトボードに貼り出したのは、部員一人ひとりの名前が記された精密なデータシート――『アナリシス・レセプト』だった。
「佐々木、お前はレシーブの際、右足の重心が0.5秒遅れる。それは筋力不足じゃない、眼球の動かし方の癖だ。このビジョントレーニングを15分やれ。一週間でボールが止まって見えるようになる」
「田中。お前のジャンプサーブは威力はあるが、ヒットポイントが低すぎる。肩の可動域を広げるこのストレッチと、打点を5センチ上げるための助走の歩幅を矯正する。そうすれば、相手のリベロは一歩も動けなくなる」
ホワイトボードに並ぶのは、プロチームのスカウティングレポート顔負けの弱点分析と、それに基づいた専門的な改善メニューだった。
碧斗の脳内では、システムが弾き出した「最適解」が常にアップデートされていた。
「俺が定義するのは、お前たちの『才能』じゃない。『役割(ロール)』だ。全員が自分の仕事だけを完璧にこなせば、北総にだって勝てる」
ただの人数合わせだった部員たちの目に、小さな灯がともった。
根性論ではない。目の前の「これをやれば上手くなる」という明確な数値と論理。それは、暗闇を走る彼らにとって唯一の道標になった。
「……やってやるよ。それで本当に上手くなれるんなら」
一人、また一人とコートに戻る。
その日から、城南高校の練習風景は一変した。
無駄な声出しは消え、代わりに互いに交わす鋭い指摘と、目的意識を持った動作の反復が体育館を満たしていた。
メキメキと、成長音が聞こえる気がするほどにチームが変わっていった。
昨日まで「万年1回戦敗退」を自嘲していた少年たちは、碧斗が処方した『勝利への分析レポート(アナリシス)』を手に、勝利を貪欲に求める猛獣へと変貌を遂げようとしていた。
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