第2話:アップデート
深い意識の底、碧斗の前に前世の「彼」の最後に至る情景が早回しでフラッシュバックする。
ネットの前に、高々とそびえ立つ三枚のブロック。それはまるで逃げ場のない城壁だった。
170センチそこそこの背丈で、バレーボール日本代表まで上り詰めた「彼」だったが世界の壁は厚かった。練習に練習を重ね、スパルタの特訓は「彼」の身体と精神を軋ませていった。
ネーションズリーグ、世界の強豪が勢ぞろいするバレーボールの頂上を決める大会に初めて出場した「彼」は、その壁を打ち破ろうとした結果、空中でバランスを崩し着地に失敗した。
「グシャリ」という鈍い音と共に、「彼」の選手生命は終わった。
その後の人生は、まさに坂道を転がるようだった。
バレーを失った喪失感を埋められず、流されるままに就いた事務職。理不尽な上司。そして、あの雨の夜の破局。
「――今度は、壁に負けない」
闇の中で碧斗が強く念じた瞬間、網膜に浮かぶシステムメッセージが激しく明滅した。
『対象の強い意思を検知しました』
『前世コンプレックス:【体格差・低身長】を変換します……』
『スキル:【天空の視点(スカイ・アイ)】……生成失敗。再構築します』
『……成功。固有スキル:【空位の支配者(エア・ルーラー)】を付与しました。アップデートを終了します』
バチバチと神経を電流が走るような感覚が碧斗の全身を包んだ。
翌朝、目覚まし時計の音で目を覚ました碧斗は、自分の身体の異変に気づいた。
「……体が、軽い」
鏡の前に立つ。
身長は175センチほど。バレー選手としては決して恵まれているわけではない。だが、鏡に映るその肉体は、昨日までの自分とは明らかに違って見えた。
筋肉の一つひとつが、まるで極上のバネのようにしなやかで、爆発的なエネルギーを秘めている。指先まで神経が行き届き、空間の距離感が以前よりも鮮明に把握できる。
「システムアップデートか。本当に、書き換えられたんだよな……」
前世の碧斗は、ただ高さを羨み、力任せに壁へ突っ込んだ。
だが今は違う。
この「新しい身体」と、システムがもたらした「視界」があれば、どんな巨人が立ち塞がろうと、その指先一枚の隙間を射抜ける。
碧斗は登校用のカバンを掴み、家を飛び出した。
今日から転校生として登校する、城南高校でバレー部に入部する気はない。
かつての自分が一度は諦め、泥水をすするような日々の中で失った「頂点」への道は、最速のルート、クラブチームから駆け上がる。
「今度は、俺が壁を叩き壊す番だ」
朝日に照らされた碧斗の瞳には、前世のサラリーマン時代にはなかった、冷徹なまでの闘志が宿っていた。
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