Quest 2.5 泥沼の『課金箱《ガチャ》』と、爆死する勇者
おはようございます! 本日の『おとなのデパート・マロン』は、店内の一角で発生した局地的な戦闘により、少しピリついた空気が流れています。
戦闘が行われているのは、レジから少し離れた休憩スペース。そこに設置された、古びた一台の自動販売機の前です。1000円札を直接投入するという、子供向けとは思えない高額なレート設定。これこそが、数多の冒険者たちの財布を枯渇させてきた、悪魔の装置『
今、その前で一人の男性客が、震える手で財布を握りしめ、筐体と対峙しています。年齢は二十代半ば。装備は少しヨレたシャツ。彼の視線は、ショーケースの中に飾られた『特賞(SSR)』のポップに釘付けになっています。
彼が狙っているのは、カプセルに封入された『女子大生の使用済み……』と書かれた布切れ。いわゆる、聖女が身につけていたとされる聖なる防具です。
ここで、NPCとして一つ重要な補足をさせていただきます。この世界の法(条例)において、本物の使用済み下着を売買することは固く禁じられています。ゆえに、あの景品の実態は、工場で生産された新品です。
熟練の
しかし、彼のようなマニアにとって、物理的な真偽はさほど重要ではありません。そこにそうであるというロマンが存在するかどうか。彼はアイテムそのものではなく、その向こう側にある幻想にクレジットを支払っているのです。
ウイーン、と機械的な駆動音が響き、彼の手から千円札が吸い込まれていきます。 戻ってくる保証などどこにもない、泥沼の
ガコン。重たい音と共に、一つ目の白いカプセルが排出されました。
彼は祈るような手つきで箱を開封します。中から出てきたのは――ペラペラの紙切れが一枚。『次回使える200円割引券』。カプセルに入っていたため、僅かに反っています。
……残念。それは、もっとも排出率の高い
「くそっ……! 次は、次こそは……!」
彼は諦めません。二枚目の千円札が、怒りと共に投入されます。ガコン。出てきたのは、『一般的なマスク』です。何の変哲もない、花粉の時期に重宝するマスクです。おまけとして『次回使える200円割引券』が付属していますが、先ほどの物とさほどの変わりは無いと言えます。
三枚目。四枚目。彼の目が、徐々に血走ってきました。呼吸が荒くなり、額には脂汗が滲んでいます。
これは典型的な状態異常『
「頼む……頼むよ……!」
最後の一枚。彼は財布の中に残っていた最後の千円札を、神に祈るように投入しました。レバーを回す手つきは、世界を救うために聖剣を引き抜く勇者のように悲壮です。
ガコン、ゴトッ。
排出されたのは、黒いカプセルでした。お? これは、もしや。彼の手が震えます。カプセルをこじ開け、中身を取り出します。
そこに入っていたのは――真っ黒な、薄い布。パンティではありません。それは、ゴム紐のついた『謎のアイマスク(安物)』でした。もちろん『次回使える200円割引券』が付属しています。
……ああ。私は静かに目を伏せます。それは、装備した者の視界を完全に奪うだけの、呪いの装備。何の特殊効果もなく、ただ視界を闇に閉ざすだけの布切れです。
「あ、ああっ……あああ……」
勇者はその場に膝から崩れ落ちました。手には呪いのアイマスク、財布の中身はゼロ。完全なる敗北。この業界用語で言うところの『爆死』です。
彼はふらふらと立ち上がると、亡霊のような足取りで店を出ていきました。その背中には、激戦の末に全てを失った者特有の、深い哀愁が漂っています。
「ありがとうございましたー」
私はレジの中から、勇敢にも確率の神に挑み、そして散っていった名もなき勇者に、静かな黙祷を捧げるのでした。『次回使える200円割引券』が僅かな希望となりますように。
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ここを異世界の武器屋だと思っているギャルゲーマー店員が「夜の装備品」を真顔で解説してくるんですが 日谷もも @yasaikuguri
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