O.K

Slumber Party

短編小説「O.K」

O.K


 亡くなった方の整髪を施す際に、追加料金で故人の頭髪を少し入れて小さな御守りを作ってくれるサービスがある。両親が事故で亡くなった時に、私はそれをお願いした。


 身近な物に付けたいと思い、御守りは家の鍵に付けておいた。家の鍵は外出時に必ず身につけるものだし、そうした。


 家の鍵は毎日使うため、御守りはすぐにボロボロになってしまった。鍵に括っていた紐もボロになり、紐が切れて御守りを落としてしまうのではと思い、インターネットで小さな透明のポーチのキーホルダーを買った。大きさは、二人の御守りを縦にしまうと、ちょうど入る大きさだった。


 ある日、ポーチに入れた二人が窮屈に感じていないか心配になった。ポーチから出さないまでも、家に鍵を置いておくときは、ポーチの蓋を開けておこうかと思った。と同時に、その行為は、ポーチの中で小動物を飼育しているような感覚に似ているなと思い、少し面白く感じた。面白くなった私は、テーブルの上にポーチから御守りを出して、少し散歩をさせた。ずっと窮屈なポーチにいたのだから、とても喜んでいるはずだ。



♦︎



 そんな小説のアイデアが頭の中に思い浮かんだ。故人の髪の毛を入れた御守りを、もはや物や別の何かとしか捉えていない冷めてしまった主人公を閃いた。私は書斎に行ってパソコンを立ち上げ、アイデアの熱が冷めないうちに原稿に取り掛かった。


父が家に帰ってきた、あの日のことを思い出しながら。


 あの時は、今以上に色々な方々の助けを受けていた。葬儀屋さんもそうだ。彼らは仕事の一環でこなしているだけだったのかもしれないが、血の通った仕事をしてくれていると私は感じた。


 Lさんのことを思い出した。Lさんは、父が亡くなった時に担当してくれた葬儀屋さんの男性社員で、真面目な打ち合わせの合間に、雑談を挟み込んで場の緊張感をほぐしてくれたり、私と二人きりのときは「大丈夫ですよ」と肩を叩いて話してくれたり、フランクな人柄だった。軽いと思われるかもしれない。でも、介護と看取りの緊張の中で、Lさんの人柄と「大丈夫ですよ」という軽口は、当時の私にはとても心地良かった。


 Lさんから、有料サービスの御守りの話を受けたとき、私にお金はなかった。なので、そのことを正直に伝えて、サービスをお断りした。Lさんは、「大丈夫ですよ」と言った。


 父が家に戻ると、Lさんが段取りをしてくれたように、着替えや化粧や父が傷まないようにする処置が進んだ。洗髪や散髪、髭剃りは、葬儀屋さんが提携している美容師さんがやってくれた。美容師さんから、打ち合わせでLさんから聞いていた頭髪を入れた御守りの話が出た。


「御守りのお色はこの中から選べますが、どういたしましょう?」


美容師さんは金額の話を一切せず、御守りの色を優しい口調で尋ねてきた。状況が飲み込めず、とりあえず父の好きな紫を選んでお願いした。


 私は頭の中に、ずっと違和感が残った。確か、このサービスは有料で追加料金がかかるはずだと。


 結局、私は聞けなかった。Lさんの心意気に水を刺す気がして。本当なら確認をして、ちゃんとお礼を言うべきなのだろうが、当時の私は動けなかった。


 その後、Lさんは葬儀屋を退職してしまったと他の社員さんから聞いた。Lさんが現在何をしているのかはわからない。でも、してもらったこと、正確には、してもらったのかもしれないことは、今も忘れていない。鍵につけた透明のミニポーチに入っている御守りを見る度に、父のことと共に、Lさんのことを思い出す。




短編小説「O.K」

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