第3話 コンテスト応募作品の判定が地獄だった 🤖🔥

 コンテストの応募締切を迎えた編集部は、妙な熱気に包まれていた。

 俺のPCのモニターには応募作品のタイトルが一覧となって並んでいる。


 応募総数は約500作品。

 小規模コンテストとしては“多いほう”だが、編集部全員で分担すれば普通に回る量だ。

 ……なのに、なぜか俺しか作業していないのは、気のせいじゃないと思う。


 とはいえ、担当している作家もいない。

 俺はひたすら「手書きスキャナー」を実行する。


 ……と言っても、アプリにテキストファイルを放り込めば、あとは勝手に解析してデータベースへ叩き込んでくれる。

 俺の仕事は、その判定結果を見て “AI作品” か “手書き作品” かを申請するだけ。


(いや、簡単なんだけど……なんか虚しいんだよな)


 編集って、もっとこう――作家と向き合って、作品を磨き上げていく、そんな “血の通った仕事” だった気がするんだが。

 いま俺がしているのは、どう見ても「人間を介さない自動仕分け作業」だ。


 さらに追い打ちをかけるように、スキャナーは冷酷な判定ログを突きつけてくる。


 【手書きスキャナー判定】


 - 手書き度:2%(低温注意)

 - 手汗指数:0(乾燥地帯)

 - 手直し赤ペンポイント:0

 - 手癖プロファイル:未検出

 - 文章の温度:0.2℃

 - 総評:冷凍庫で出荷した文章です。


(お前……言い方というものをだな……)


 毒舌アプリ相手に淡々と作業していると、事件は起こった。


 ――俺は、気づいてしまったのだ。


「……え、これ……普通に面白いんだけど?」


 最初は違和感だった。

 だが読み進めるうちに、脳がゾワッと震えた。


 AI作品のほうが、圧倒的に読みやすくて完成度が高い。


 文章のリズムは滑らかな風のようで、物語構造は鉄筋コンクリート並みに精密、キャラクターは一切暴走せず、オチはエレベーターの扉みたいにピタッと閉まる。


 一方で、人間の応募作品はというと……


 【手書きスキャナー判定】


 - 手書き度:97%

 - 手汗指数:爆発寸前

 - 手直し赤ペンポイント:764

 - 手癖プロファイル:比喩の暴走/改行の迷子/作者の情緒の乱れ

 - 文章の温度:38.6℃(妙に熱っぽい)

 - 総評:勢いだけで仕上げた作品


「いや……これはこれで味があるんだけど……!」


 味はある。

 だが、表面的な完成度ではAI作品が圧倒的だ。


「……どうするんだこれ。AI作品、落とすべき? でも人間作品より明らかに完成度が高いんだけど……?」


 頭を抱えた俺は、ついに編集長へ相談する決意を固めた。

 しかし編集長の席に向かうと、誰もいない。


(あ、そういえば今日は「AI研究会」だったな……)


 会議室の前まで行くと、中が異様にざわついていた。


 部屋の中では壁掛けの大型モニターが淡いブルーの光を放ち、画面には【AI作品の審査基準について】の文字がどんと表示されていた。

 その冷たい光が編集者たちの顔を照らし、どいつもこいつも胃が痛そうな表情をしている。


「テンプレ構成だけど、読者はこっちのほうが読みやすいよね?」

「でもAI作品を受賞させたら、炎上する未来しか見えないんだが……」

「“手書き感の再現性” で選ぶとか? いやそれ審査基準にならんだろ……」


 みんな、俺と同じ壁にぶつかっているらしい。


「手書き度の数値が高いだけでは、面白さには直結しないんですよ!」

「逆にAI臭くても、構成が鉄壁ってパターンもあって……ズルくないですか?」

「読者の大半は“文章の巧拙”より“読みやすさ”を重視するしなぁ……」


(おいおい……ガチで揺れてるじゃん編集部)


 俺は意を決して、会議室の扉をノックした。


「失礼するっす。あの、編集長……! AI作品のほうが面白――」


 その瞬間だった。

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