第1話 クラスLINEに入れない


クラスにグループLINEがあることを、俺は知っている。


知らないわけがない。


なにしろ、教室の会話の八割が、それを前提に進んでいるからだ。


「昨日、LINEで言ったじゃん」

「それグルラに流れてたよー」

「写真あとで送るね、LINEで」



――そのLINEに、俺の名前だけがない。


別に「入るな」と言われたわけじゃない。

ただ、招待が来ないだけだ。 それが明確な拒絶よりも、ずっと扱いに困る。


俺はスマホを机に伏せて、深く息を吐いた。


「……なぁ、沙羅」


隣の席の幼馴染に、小声で話しかける。


「クラスLINE、入ってるか?」

「んー?」


沙羅は、教科書の余白に魔法陣みたいな落書きをしながら、首をかしげた。


「入ってないよ」


「……気にならないのか」


「なんで?」



即答だった。 俺は言葉に詰まる。


「いや、ほら。連絡とかあるだろ」


「直接聞けばよくない?」


「そうだけど……」


それができないから困ってるんだ、という言葉を飲み込む。


沙羅は、心底不思議そうな顔で俺を見た。


「ぐぐるんって、そういう世界に行きたい人なんだね」


そういう世界。


たぶん沙羅の言うそれは、クラスLINEがあって、昼休みに自然と輪ができて、放課後に「今日どうする?」なんてメッセージが流れてくる世界だ。


「……行きたいよ」


思っていたより、素直な声が出た。


「普通に、話したいだけだ」


「ふーん」



沙羅は興味なさそうに、また落書きに戻る。


「私、今の世界で忙しいから」


「何のだ」


「異世界」


あっさり言うな。


俺がクラスLINEに入れない理由は、だいたい分かっている。


俺は、東条沙羅と一緒にいるからだ。


通称、《七つの厨二を超えた女》。


魔法少女で登校し、自分を人魚姫だと思い込み、二階から飛ぼうとした前科持ち。


そんな人間の隣に、いつもいる。


それはつまり、「同類」か、「関わらない方がいいやつ」か。

どちらかに分類されるということだ。



「なぁ、沙羅」

「なに?」

「もし、クラスLINEに誘われたら……」


言いかけて、やめた。

そんな仮定を、彼女にぶつける意味はない。


「やっぱいい」

「変なの」


沙羅は笑った。


「ぐぐるん、世界は一個じゃないよ」


軽い調子で言う。


「今のはどの世界だ」

「現実世界」

「異世界は?」

「放課後から」


俺は、小さく息を吐いた。


俺は、現実世界に戻りたい。


沙羅は、最初から異世界に住んでいる。


その決定的なズレを、俺はまだ「問題」だと思っていなかった。



この時は、まだ――

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