第2話 さらばカジーノ
カジーノ・デ・ゼンザ・イサント・カシタは、妙義山テプイの山頂にあつらえた豪華絢爛なテーブルセットに座っていた。 テーブルを囲うは、あの爆風を唯一生き延びた名もなき参加者だ。ガタガタと震えながら座らされている…これから何が起こるかも知らずに。
「殺し合いなど野蛮人のすることだ。芸術家らしく、優雅に勝敗を決めようじゃないか」 「僕は芸術家じゃないですけど…。」
カジーノは懐から新品のトランプを取り出した。
カジーノはトランプをテーブルへと叩きつけながら、叫んだ。
「このトランプには致命的な欠陥があるッ!!」
「ヒィッ!? ……欠陥って、枚数が足りないとかですか? 54枚あります?」
名もなき参加者の心拍数が上昇する。無理もない、気狂いのそれだ。
「数字、これはあまりにも美しくない。1から13までの数字。
そんな共通の記号で価値が決まるなど、画一的すぎる。何よりキリが良くない。」
名もなき参加者の冷や汗が止まらない。
カジーノの左手——剥奪(Chaos)の権能が静かに、しかし神々しい閃光と共に発動した。
【対象:概念】 【剥奪:『整数』という概念を、この場からアンインストールする】
その瞬間、世界から「数」が消えた。
トランプに描かれていたはずの数字は、インクの染みのように溶け、白紙へと変わった。
カジーノの視界にちらちら映っていた、残り時間と残り人数のカウントも、全て意味を失い消滅した。
「うわぁぁぁ! 数字が! 僕のスマホの時計も変な記号になってる! 令和何年かも分からない! 何してくれるんですか!!」
「さあ、ポーカーを始めよう。数字に縛られない、男と男の勝負だ」
カジーノはカードを切る。優雅に配る。
対戦相手の男は2色(赤と黒)で染め上げられた5枚のカードを見て、絶望に顔を歪ませる。
「あの、ちょっといいでしょうか…?」 「なんだね」
「数字がないのに、どうやって勝ち負けを決めるんでしょうか?」
「静かにしたまえ。それは私が決めることだ。」
カジーノは自分の手札を確認する。右から、赤、赤、黒、黒、赤。
もちろん、そこには「2」も「J」も存在しない。ただの色紙だ。
「よし、こうしよう。
ファイブカードなら負け、ブタなら勝ちだ。もちろんルールは知ってるだろう?ファイブカードは同じ数が5枚、ブタは役無しってことだ」
「……。……えっ? いま、なんて? 『5枚』って言いました? 『同じ数』って言いましたよね? さっき自分から『整数』を消去しましたよね!?」
カジーノは満足げに深く頷くと、それをテーブルに広げた。
「ふむ。私の手札は・・・そうだな。ファイブカード(Law)だ。君は?」
「……えっ?」
名もなき参加者は、思考を放棄した。
目の前の男は、たった数分前にこの世から「整数(数)」を消し飛ばしたはずだ。
それなのに今、平然と「ファイブ(5)」という数値を口にし、あろうことか「同じ数が5枚」という定義を必要とする役を宣言した。
「ふふふ。どうだね、この美しすぎる『5(ファイブ)』は。
文句のつけようがないだろう。さあ、ルール通りなら僕の負けだ。
だが、この敗北こそが芸術……」
カジーノが悦に浸り、優雅に椅子から立ち上がろうとしたその瞬間だった。
【警告:致命的な論理エラー(Fatal Error)】
カジーノの頭上に、血を吐き出すような真っ赤なシステムメッセージが奔流となって溢れ出した。
「……何だ? 演出か? だとしたら派手すぎるな」
「い、いや、カジーノさん! 身体の境界が、バグったテレビの砂嵐みたいに——」
【ログ:実行命令『ファイブカード』の処理を受理しました】
「…あ」
【宣告:強制解決を開始します】 【解決策:存在の矛盾を解消するため、実行者(不純物)を消去します】
「待て、これはただの——」
カジーノ・デ・ゼンザ・イサント・カシタの肉体は定義の狭間で激しく火花を散らし、次の瞬間、宇宙の法則が起こす猛烈なスパークと共に爆発四散した。
妙義山テプイの山頂には、粉々になったカジーノのマントの破片と、あまりの不条理に精神が限界を迎えて白目を剥いた「名もなき参加者」だけが取り残された。
第2話、完。
カジーノ、死亡。
世界を書き換える【概念ハック】バトロワに参戦したが、自分の作ったルールの矛盾で勝手に爆死して戻ってくる男。~自称芸術家の美しい自爆録~ 夜行 @Yako_jwkf
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