第1章 森で迷ったら

 俺は、王都の方角に向かって鬱蒼とした森を歩いていた。

 だが、一つ致命的な問題がある。俺は絶望的に方向音痴だ。


 数日前から、進んでいる道が正しいのか全く自信がない。

 どこからともなく聞こえるフクロウの怪しい鳴き声が、俺の心細くさせる。


 そのとき、遠くで鳥が一斉に飛び立つのが見え、ドォォン! と腹に響く爆発音が響く。


「うぉ! なんだ?」


 俺は、思わず地面に伏せる。地震か?

 だが、その音はドォン、ドォンと断続的に続く。これは、戦闘か?

 ならば、誰と誰が? モンスター同士が争っているのか?


 だが、直後に森から上空に青白い雷が走ったのを見て、その予想は否定された。

 あれは、雷魔法だ。つまり、人が何かと戦っている。


 俺は、気がついたら駆けていた。

 ただの魔法杖職人の俺に何ができるというのか。戦力の足しにもならない。

 だが、魔法使いがモンスターと戦っているのだ。見て見ぬ振りをして逃げては魔法杖職人の名が廃る。


 音の元に着くと、そこには、一人のローブの人物が、巨大な獣――ベヒィモスと対峙している光景があった。


 魔法使いは果敢に魔法を当てているが、ベヒィモスの鋼のように硬い皮膚には深いダメージを与えることができない。

 刹那、ベヒィモスの薙ぎ払いがきた。

 魔法使いは防御魔法を咄嗟に展開したが、ベヒィモスの圧倒的な攻撃力にシールドは紙のように壊され、その体ごと吹っ飛んだ。


「ガッ!」


 ローブの人物は木に背中を強くうち、肺から空気が漏れた音がした。

 最悪なことに、衝撃で握られていた魔法杖が半ばから折れてしまっている。


 魔法杖が折れたということは、剣士で言えば剣無しで戦うことと同義だ。

 つまり、無力だ。


 だがローブの人物は、折れた杖を構えている。まだ戦う気なのか。

 べヒィモスは、攻撃の反動で追撃せず、唸り声をあげている。


 俺は、自分の魔法杖を掴んで、魔法使いに投げようとした。

 だが、一瞬躊躇する。


『お前の杖は、クズだ』


 ギルド職員の言葉が脳裏に響く。

 刹那、怒りが湧き上がる。

 ……うるせー。誰が俺の杖の評価を勝手に決めていいと言った?


「俺の……、俺の杖は最強だ!」


 俺の叫びに、ローブの人物が気づく。


「なんで! 一般人が?!」


 俺は構わず魔法杖を投げた。ローブの人物がそれを受け取る。


「杖が壊れても良い! お前の最大魔力で、撃て!」


 魔法杖には耐久性がある。普通ならリミッターをかけるが、それをオーバーしても良い。

 全力で打ってくれ!


 ローブの人物が「感謝する」と短く言うと、魔法杖がカッ! と眩く光りだす。

 ベヒィモスの次の攻撃がくる。


「嵐よ、穿て――ディガ・ウィンド!」


 一瞬、森の木々が、ローブの人物が構える魔法杖の先端に強烈に引き寄せられ――

 直後、一気に圧縮された空気が放たれ、世界が弾かれたように吹き飛ぶ。


 ドゴォォォォォォォォッ!!


 俺は吹き飛ばされないように踏ん張りながら、腕で顔を隠す。

 砂埃が晴れ、目を開けると、そこには、上半身が跡形もなく消えた、ベヒィモスだったものが残っていた。

 後ろの木々も扇状に消え失せている。


「す、すげえ……」


 俺がつぶやく。ローブの人物と目が合った。


「これ、何?」

「へ?」


 俺は間抜けな声を出した。


「私、こんな威力の魔法知らない」


 ふわり、とフードが落ちる。

 金髪の長髪が風になびいて広がる。

 これが、S級魔法使いのカレンとの出会いだった。

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