第2章 焚き火を囲んで

「なるほどね。話はわかったわ」


 カレンはほう、と息を吐いて言った。

 焚き火に照らされ、端正な顔の影が、炎の揺らぎに合わせて揺れている。


 ベヒィモスを粉砕した後、俺とカレンは、開けた場所で火を囲み、お互いの事情を聞くことにした。もちろん、戦闘後の休息も兼ねている。


「しかし、方向音痴にも程があるわ。まさか非戦闘職が『禁忌の森』に入るなんて、前代未聞よ」

「き、禁忌の森……?」


 俺が進んでいた道は、全くの見当はずれだった。

 気がつけば、A級以上の冒険者以外は入ってはいけない危険地帯――『禁忌の森』と呼ばれる場所に入っていたのだ。


「あの森はね、普段は魔物もいない平和な森に見えるんだけど、時折、A級クラスのモンスターが出現するの。私は、その討伐に来たってわけ」


 カレンは、森の奥を睨むように視線を向けた。


「けど、まさか三本ツノ持ちのベヒィモスだとは思わなかったわ。3本ツノはS級よ。ったく、ギルドの情報屋には文句を言わないと」


 S級……。俺は背筋が凍る思いだった。


「けど、あなたのおかげで助かった。礼をいうわ。ありがとう」


 そう言って、カレンは真剣な眼差しで頭を下げた。


「いや、こちらこそ、俺の魔法杖が役に立てて嬉しいよ」


 俺がそう言うと、カレンはガバっと勢いよく顔を上げ、詰め寄ってきた。


「それよ! あの魔法杖。一体何?!」

「うおっ……。あれか、あれは俺が作った杖だけど……」

「え? あなた、魔法杖職人なの!?」


 カレンはまじまじと俺の顔を見る。そして首を振った。


「……ごめんなさい、私、大体の有名な魔法杖職人は知ってるはずなのに」

「知らないはずさ。片田舎にずっと引っ込んでいたんだから。っていうか、こっちのセリフだよ。なんだ、あの魔法の威力は?」

「ディガ・ウィンド。私が使える最上位の風魔法よ」


 でも……とカレンは言葉を濁し、自身の掌を見つめた。


「あんな威力は、今まで見たことない。あれは間違いなく……杖の性能のおかげ」

「それは嬉しいが……うちのギルドでは『最悪の杖』という評判だったんだぜ」


 俺は、ことの経緯を伝えた。


『バランスが悪い』『馴染まない』と罵倒され、追放されたことを。


 カレンは鼻で笑った。


「ふーん。『魔法使いあるある』ね。杖の性能を引き出せない二流魔法使いが言う負け惜しみだわ。間違いなく、あなたの杖は一級品よ。私が保証する」


 俺はそれを聞いて驚きと共に、目頭が熱くなった。

 職人として全否定され、絶望していた俺だ。まさか、こんなところで最大の理解者に出会えるとは。


「でも、それにしても説明できない威力だったわ。一体、どうやって作ったのか教えてくれない?」


 俺は、火をくべながら話す。


「魔法杖の役割は知ってるだろう?」

「ええ、魔力のコントロール。わかりやすく言えば、砲身ね。魔法使いが体内で魔法を錬成し、それを魔法杖を通して外部に出力する。その際、杖は魔法の速度や精度を高めるわ」

「その通り。だから、魔法杖は、魔法使いの内部の魔力と、ある意味リンクしているとも言える」

「だから、繊細なのよ」

「そうだ。だが、こう考えたことがある。『火吹き棒』だ」

「火吹き棒?」

「ああ。火吹き棒は、口を離して息を入れると、周囲の風も巻き込んで、より多くの風を送ることができる。あれと同じだ」


 俺は周囲の空気を手で仰いだ。


「人間の体内にある魔力は有限だが、俺たちを包む空気には、無限の魔力が漂っている。これを取り込めたら? どうだろう」

「……数倍の魔力が、込められる」


 カレンがごくりと喉を鳴らす。


「その通り。俺の作る魔法杖は、それだ」

「考えたこともなかった……。そもそも、大気中の魔力はコントロールが難しい。言ってみれば、それは精霊使いや勇者などの領分だわ」

「それを、俺の魔法杖は自動的(オート)にやるんだよ。あんたが流し込んだ魔力を呼び水にして、大気中の魔力を根こそぎ吸い込んだんだ」

「……すごい」


 カレンの目が輝いている。


「だが、今までは全くうまくいかなった。説明しても理解してもらえなかった。『机上の空論を吐くな』なんてね。だが、あんたの魔法を見てわかったよ」


 俺は、自分の仮説に確信を持った。


「俺の理論は間違っていなかった。ただ、それを実行できる『出力』を持った人がいなかったんだ。火吹き棒だって、吹く息が弱すぎれば風は巻き込めないからな」


 カレンが、じっと俺の目を見る。

 炎の光ではない、強い光がその瞳に宿っていた。

 俺は、ドギマギした。


「ヒイラギ、あなた、王都を目指しているのよね? 丁度いいわ。うちのギルドに来ない?」

「何?」

「ウチのギルドで、二人で天下をとるのよ」

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