第2話 神の手

 後半は硬い話になります。「神の手」といっても某ドラマの話ではありません。


 20世紀のサッカーで非常に有名な試合があります。1986年ワールドカップ・メキシコ大会の準々決勝、イングランドvsアルゼンチン戦です。


 当時スーパースターだった、アルゼンチンのディエゴ・マラドーナは後半6分にペナルティエリア内にふわりと浮かんだボールに走りこみ、イングランドGKシルトンのパンチングよりわずかに早くヘディング?して、ゴール……


 ……したように見えましたが、イングランドはハンドだと主審に猛烈抗議。リプレーを見ると確かにマラドーナの左手がボールを弾いているのが映っていました。ですが当時はVR判定が無い時代。主審にはハンドが見えずそのままゴールを認めてしまいました。マラドーナが試合後のインタビューで「神の手が触れた」と表現したことからこのプレーは神の手(Hand of God)と呼ばれるようになりました。


 さらにこの試合、マラドーナは「神の手」ゴールから4分後にも、センターライン付近から驚異的な「5人抜きゴール」を決めました。最初のボールタッチからの角度の切り替えが超芸術的なんです。試合の重みも加味すると「20世紀のベストプレー」だと思います。


 

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 さて、この1986年のイングランドvsアルゼンチン、実は因縁の国同士の対決でもあったんです。サッカーではありません。島の領有権争いです。1982年のフォークランド紛争でアルゼンチンがイギリスに敗戦したことから、特にアルゼンチンにはサッカーの枠をこえたイングランド憎しの国民感情が渦巻いていたのです。


 フォークランド紛争(Falklands War)は、アルゼンチン沖のイギリス領フォークランド諸島領有を巡って1982年に発生したイギリスとアルゼンチンの間の紛争、いや実質戦争です。


 独立戦争を経て1816年にアルゼンチンはスペインから独立すると、イギリスにフォークランド諸島の返還を求めるようになりました。しかし諸々の理由で長い間棚上げ状態となっていました。


 1960年代アルゼンチンでは内政の混乱と極度のインフレで、国民の不満がたまり、それを逸らすためフォークランド諸島の帰属問題が取り上げられるようになりました。一方イギリスにとってはマイナーな問題であり、当のフォークランド諸島民もアルゼンチンへの帰属を望んではいませんでした。


 しかしアルゼンチン政府は1983年までに諸島問題を解決することを強い目標としており、1981年12月ついにアルゼンチン海軍 が侵攻作戦を計画し、本格的な武力行使が行われることになりました。1982年4月2日アルゼンチン軍は住民1800人の島に上陸して占領。ここにイギリスとの実質的な戦争が始まったのです。


 イギリスは航空母艦や原子力潜水艦などを含む機動部隊を派遣して反攻に転じ、先端兵器、軍用機を使用した激しい戦闘が2か月以上に渡り続きました。


 イギリス軍は6月13日からポート・スタンレーへの全面攻撃に移り、6月20日にはサウス・サンドイッチ島を再占領、イギリスの実質勝利で72日間の戦争がようやく終わりましたた。


 この戦争でアルゼンチン軍は 649名戦死、英国軍も 255名が戦死しました。さらにイギリス側は駆逐艦、フリゲート に艦など7隻が失われ、アルゼンチン側にいたっては巡洋艦「ARAヘネラル・ベルグラーノ」沈没(323名戦死)の他、多数の航空機を喪失しました。冷戦下で近代化された西側諸国の軍隊同士による初めての紛争であり、「兵器の実験場」とも称されました。


 この4年後に上記のワールドカップが開催された訳です。



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 翻って中国の台湾問題(これが最も恐ろしい)、尖閣諸島の領有、沖縄帰属への言及、トランプ政権のベネズエラ大統領の拘束、イラン攻撃の可能性、そしてグリーンランドの譲渡要求、韓国との竹島の領有問題、ロシアのウクライナ侵攻と北海道北方4島の占有。北朝鮮の反米反日政策、軍事行動、核開発。


 領有権問題や戦争の危機が日本近郊でも山の様にあります。これらは決して火が消えた訳ではなく、フォークランド紛争のように不気味な種火が藪の下でくすぶっているのです。


 いつどこの国が「神の手」と称して軍事進攻してくるかはわかりません。逆にかつて「神風」と称した我が国の一部の思想家にも気を付けなければいけません。加害でも被害でも、戦争への道のりを歩いてはいけないのです。

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