前髪
「まずは、これをどうにかしないとな」
朝霧はそう言って、そっと俺の前髪に手を伸ばした。
俺の反応をうかがうように、慎重な動作だった。思わず少し身を引いて目を瞑ったけれど、それ以上拒むことはできず――その手を、黙って受け入れた。
「……目、開けてみ」
言われるまま、ゆっくりまぶたを開ける。
すると、視界がいつもよりずっと明るかった。
前髪に触れると、そこにはピンが留められていた。
「これ……」
「俺のピンだよ。ほら、俺の髪についてるのと同じやつ」
朝霧は少し照れたように笑った。
「……え?」
「それ、やるよ。顔もちゃんと見えるし、……なんか、ちょっと明るく見えるっていうか」
「……これ、ほんとにいいの?」
「うん。俺にとっても大事なものだけどさ。お前が変わるきっかけになるなら、その方が嬉しいから」
「……ありがとう。俺、頑張るよ。胸張って朝霧の友達って言えるように」
朝霧は少し笑ってから、ふっと真面目な顔になった。
「……無理すんなよ。頑張りすぎなくてもいい。お前のペースでいいから…あと、もう友達だからな」
優しく目を細めて、そう言った。
「応援するよ」
その言葉は、真っ直ぐ胸に届いた。
あたたかくて、優しくて――思わず目の奥が熱くなる。
「……なんだよ、それ。泣かせにきてんのか」
冗談っぽく言ったつもりだったけど、声は少しだけ震えた。
朝霧はそんな俺を見て、ふっと笑った。
「泣くほどのこと、言ったか俺?」
「……わかんねぇけど。でも、ありがとな」
少し強めの風が吹き、前髪を揺らした。
でももう、視界は曇らなかった。
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