勘違い
遠足からしばらく経ち、クラスでも俺たちは普通の友達みたいに話すようになった。
自分の友達よりも優先して、俺のところに来てくれることもある。
朝霧の中で、ちゃんと俺が存在していることが実感できて、少し嬉しかった。
休み時間、俺はトイレへ向かった。
昔から個室が落ち着くので、今日も迷わず個室に入る。
用を済ませて個室から出ようとしたその時、朝霧のグループが入ってきた。
「最近さ、朝霧ってアイツとしかいないよな」
「あー、東雲だっけ」
「そうそう。あの、いつも暗いやつ」
思わず個室のドアを開ける手が止まる。
聞こえてくる声の数とトーンから、そこに朝霧はいないことが分かった。
「そのせいでさ、朝霧最近ノリめっちゃ悪くね? 誘っても『先約あるから』とかばっかだし」
「わかる。別に今でも友達だけどさぁ、なんか近寄りづらいっつうか……。あんな奴といて何が楽しいんだよ」
「距離、できたよな。前みたいに笑わなくなった気もするし」
心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。
俺が朝霧から、彼の居場所を奪ってしまっていたのか?
あんなに眩しい場所にいた朝霧が、俺という泥濘(ぬかるみ)に引きずり込まれたせいで、周囲から浮き始めている。
朝霧は優しいから、きっと無理をしているんだ。俺を一人にしないために、自分の大切な繋がりを切り捨てている。
それは、あってはならないことだ。
俺のせいで彼が不幸になるなんて、あってはならないはずなのに。
(……嬉しい、と思ってしまった)
胸の奥からせり上がってきたのは、あまりにも醜い歓喜だった。
あんなにたくさんの友人がいた朝霧が、今は俺を最優先にしている。
彼の中の「特別」な椅子に、俺だけが座っている。
朝霧の優しさを、彼の犠牲を、自分の孤独を埋めるための餌にして喜ぶなんて。
そんな独占欲にも似たどろりとした感情が自分の中にあったことに、激しい吐き気がした。
俺は、最低だ。
朝霧の隣にいていい人間じゃない。
今すぐにでも、ここから消えてなくなりたかった。
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