仲良し?

「東雲、おはよ」

「……はよ」


あれから俺たちは、友達ってほどじゃないけど、普通に話すくらいの距離にはなった。

必要以上に絡むことはないし、向こうにはちゃんと友達がいる。その優先順位が俺に傾くことなんて、きっとない。


それでも。

目が合うたびに、少しだけ微笑んでくれる朝霧に――癪だけど、俺は少しずつ心を許している気がした。


今日は遠足の日だ。この学校の遠足は昔から“運動部向けかよ”ってレベルでハードらしい。山道をしばらく登って、頂上付近の公園がゴールだとか。


「全員集まったなー。じゃあ二列に並んで行くぞー」


先生の声が響く。

二列ってことは、隣の誰かと話す可能性が高い。

それが嫌で、俺は真っ先に最後尾へ行き、一人で並んだ。


歩き始めて数分後、ふと隣に人影ができた。

見上げると、そこには朝霧がいた。


「……!?朝霧?なんでここに」

「俺らのグループ、奇数なんだよ。だから、一人で寂しそ~な人のところ行こうかなって」

「……大きなお世話だよ」


そう言いながらも、心の中は少しだけ嬉しかった……気がする。


「まだ序盤だけど、ちょっとへばってない?」

「うるさいな。運動嫌いなんだから、しょうがないだろ」

「また勝負するか?」


子供みたいな笑顔でからかってくる。


「馬鹿じゃないの。誰がするかよ」


……こんな何気ないやり取りが、ただ楽しいって思えるなんて。

俺も、少しは変われたのかもしれない。


「うわ、汗すご。前髪張り付いてんじゃん。邪魔くねえの?」

「もう慣れたよ」

「でも暑いだろ?俺ピン持ってるけど。使う?」


そう言って、朝霧が俺の前髪をめくった。

……初めて、ちゃんと目が合った気がした。


「っ! 触んなよ!」


思わず手を振り払ってしまう。

その瞬間、後悔が押し寄せた。せっかく少しずつ仲良くなれていたのに。嫌われたらどうしよう、と。


「あ、ごめ――」

「わりぃ。急に髪触られんの嫌だよな」


朝霧はそれだけ言って、何事もなかったかのようにまた前を向いて歩き出す。


……俺は、少し呆気に取られた。

こんなふうに軽く流せるもんなのか。


「信じる」って言葉には、まだ距離がある。

でも――あいつの背中は、ちょっとだけそれに近づけてくれた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る