勝負

罰ゲームだと知ったあの日から、俺は朝霧を避けるようになった。

最初のうちは向こうも話しかけてきたけど、俺が露骨に嫌な顔をして避けているうちに、自然と関わってこなくなった。

そんなある日の放課後。

教室を出ようとしたところで、担任に呼び止められる。


「東雲、悪いがこれ、準備室まで運んでくれ」


振り返ると、教師の腕には山のようなダンボール。見るからに重そうだ。


「え、俺ですか?」

「他に頼めるやつがいないんだ。よろしく」


俺の声なんか聞こえなかったみたいに、教師はそのまま歩き去っていった。


(ほんと、自分の話ばっかで人の話は聞かねーよな)


仕方なく、ダンボールに手を伸ばす。

……重い。しかも顔が隠れるくらい大きくて、視界も最悪だ。


(これ、一人で運べって無理だろ……でも往復とかダルいし)


ため息をつきながら、なんとか持ち上げる。

そして最大の難関――階段の前で足が止まった。


(ここどうすんだよ……)


そのとき、背後から声が飛んできた。


「あれ、東雲? なにそのダンボールの量」

「っ!?」


驚いて手元がぐらつき、危うく荷物を落としかける。


「……朝霧」


避けてきた相手の名前が、無意識に口から漏れる。

朝霧は何も言わず、俺から荷物をひょいと取り上げ、そのまま階段を上がりはじめた。


「ちょ、待て! 俺が運ぶからいいって、それ重いだろ!」

「誰かさんと違って、俺は運動してるんで」


軽口を叩きながら、歩幅は余裕そのもの。思わずカチンとくる。


「……別に、俺だって運べるし!」


そう言って半分を無理やり取り返し、先に準備室まで持って行こうと早足になる。


「おい、ちょっと待って!」


朝霧も小走りで追いかけてくる。

気づけば、荷物を運ぶ競争みたいな空気になっていた。

結局、すぐに追い抜かれて、俺の負け。

朝霧は、息も絶え絶えの俺の横で、余裕そうな顔を見せていた。


「っしゃ、俺の勝ち」

「……運動部に勝てるかよ」

「ならもっと頑張れってことだな」


得意げに笑う朝霧。

それはあの“仮面の笑顔”じゃなく、無防備で自然な笑顔だった。


(……そんな顔、するんだ)


思わず胸がざわつく。

でもすぐに首を振る。


(期待すんな。どうせ、また裏切られるだけだ)


そう思っているのに――その素の笑顔が、頭から離れなかった。

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