友達ごっこ
翌日の昼休み。
いつものように、俺は教室の隅の席で弁当箱の蓋を開けた。周囲は賑やかだ。机をくっつけて笑い声を響かせるグループ、購買のパンを見せ合って盛り上がるやつら。俺の周りだけぽっかりと空白が広がっている。慣れた光景。むしろその孤独は、俺を守ってくれる壁のようでもあった。
箸を手に取ろうとした、そのとき。
視界の端に、すっと別の弁当箱が差し込まれた。俺の机の真正面に。
「……は?」
顔を上げると、茶髪が光を弾く。昨日と同じ男――朝霧。
整った笑顔。でもどこか「作り物」を思わせる、完璧に整えすぎた表情。
「一緒に食わない?」
軽い調子。まるで友達同士なら当たり前だろ、と言わんばかり。
「……ごめん。一人で食いたい」
即答すると、朝霧は「あーあ」という顔で肩をすくめた。
「そっかぁ。じゃあ、ここ座るわ」
次の瞬間には俺の目の前に腰を下ろし、弁当を広げ始めていた。
「……は?」
思わず声が漏れる。意味が分からない。
「友達と食べればいいだろ。なんでわざわざ俺と」
「別にいいじゃん。俺がここで食べたいだけ」
朝霧は軽く笑って箸を持つ。
「それに……“東雲くん”って呼ぶのも固いし、東雲でいいか。なんかその方がしっくりくる」
軽口に混じって笑い声がこぼれる。けれど、その奥底に、ふと微かな響きがあった。作られた音じゃない、本当の声。そんな気がして胸がざわついた。
「……まだ罰ゲーム続いてんの?」
皮肉を口にすると、朝霧は眉をわずかに動かした。
「だから罰ゲームじゃないって。ただ、一緒にいたいだけ……いや、深い意味はないけど」
俺は知っている。この流れ。
過去に何度も同じようなことがあった。面白半分で近づかれ、しばらくして笑いものにされ、置き去りにされる。
その度に、期待して、裏切られて。気づけば、人間なんて信じないようになっていた。
だから今回も、きっと同じだ。こいつも、最後は俺を笑う。
そう分かっているのに――。
ほんの一瞬、朝霧の目が揺れた。
仮面の下から覗いたような本気。見間違いかもしれない。でも、その一瞬が、心を不意に叩く。
「今回こそは」なんて、考えるだけで疲れるのに。
それでも……小さな期待が胸の奥でくすぶってしまう。
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