第4話『幼稚園という名の社交界と、最初の資本形成』

5歳になった。  俺、一ノ瀬翔は「ひまわり幼稚園」に通っている。


 幼稚園。それは子供たちが遊ぶ楽園ではない。  集団生活という名の「社内政治」を学び、将来のコネクションを作るための「社交界」だ。


(さて、今日の稼ぎはどうするか……)


 お遊戯室。俺はクレヨンを握りしめ、画用紙と向き合っていた。  今日の課題は『将来の夢』を描くこと。  周りの園児たちは「サッカーせんしゅ」だの「おはなやさん」だのを、微笑ましいタッチで描いている。


 だが、俺の視界にはウィンドウが表示されていた。


【クエスト:『将来の夢』を描く】 【評価基準:芸術点および具体性】 【報酬:最大 500 pt】


 500ポイント。  これはデカい。昨晩、隠れて行ったスクワット300回分に相当する。  適当な絵を描いて低い報酬で妥協するわけにはいかない。  俺は脳内ショップを開き、初期投資を行う。


【購入:絵画スキルLV1 300 pt】


 ――チャリーン。


 300払って500を得る。差引200の黒字。ビジネスの基本だ。  スキルが反映された瞬間、俺の脳内に「パース」や「色彩理論」がインストールされる。  俺は迷わずクレヨンを走らせた。


 俺の夢。それはサッカー選手でもケーキ屋でもない。  前世で過労死した俺が、心から渇望するもの。  それは――『不労所得』だ。


 キュッ、キュッ、キュッ……。  俺の手は精密機械のように動き、画用紙の上に「理想郷」を構築していく。  右手にワイン、左手に権利書。背景には右肩上がりの株価チャートと、南の島の別荘。  それを、写真と見紛うほどの超絶リアリズムで描き出した。


「できた」 「はーい、みんな描けたかなー? じゃあ翔ちゃん、見せてくれる?」


 保母の先生がニコニコと俺の画用紙を取り上げ――そして、固まった。


「……えっ?」


 そこにあったのは、5歳児が描いたとは信じ難い、写実的な「欲望の縮図」だった。  札束の厚み、ワイングラスの光沢、そしてチャートの細かさ。  タイトルには達筆な字で『いんたいごのゆうがなせいかつ(隠居)』と書かれている。


「しょ、翔ちゃん? これは……何かな?」 「りそうの老後です」 「ろ、老後……!?」


 先生が戦慄している。  だが、システムは正直だ。


【クエスト達成:芸術的な『老後』】 【評価:S(圧倒的画力と生々しさ)】 【報酬:500 pt 獲得】 【ボーナス:先生に「この子の将来が心配」と思わせた +50 pt】


 よし、黒字確定だ。  俺は満足げに席に戻った。


   ***


 幼稚園が終わると、次は「経済活動」の時間だ。  俺は親友の佐藤大輔(5歳)と一緒に、近所の駄菓子屋「タナカ商店」に来ていた。


「翔! 今日こそ当てるぞ! キラキラのドラゴン!」


 大輔が鼻息荒く握りしめているのは、100円玉。  今、子供たちの間では『モンスター・バトル・カード』が大流行している。  1パック150円。中には5枚のカードが入っており、極稀に「ホログラム仕様のレアカード」が入っている。


(懐かしいな……このカード、20年後には1枚5万円で取引されるんだよな)


 俺のポケットには、今月のお小遣い500円が入っている。  普通なら運試しで3パック買って終わりだ。  だが、俺にはシステムがある。


 俺は陳列されたカードの束(ボックス)の前に立った。  ここでの目的は「コレクション」ではない。「資産運用」だ。


【購入:観察眼(透視・微弱) 800 pt】


 ――チャリーン。


 痛い出費だ。今の所持ポイントの大半を持っていかれた。  だが、これはギャンブルではない。確実な投資だ。  スキルを発動し、カードのパックを凝視する。  微弱な透視能力だが、パックの隙間から「ホログラム特有の光の反射」を見抜くことはできる。


(……これじゃない。これもハズレ……お、あった)


 俺は左列の後ろから3番目のパックを指差した。  間違いなく、このボックスで一番の当たりが入っている。


「おばちゃん、これください」 「はいよ、150円」


 購入完了。  俺は店の前で、震える手でパックを開封した。  ペリペリ……。  中から出てきたのは、七色に輝く『覇王ドラゴン(攻撃力5000)』。


「う、うわあああああ!!」


 俺ではなく、隣にいた大輔が絶叫した。  公園中の子供たちが集まってくる。


「すげえ! キラだ!」 「覇王だ! 初めて見た!」


 羨望の眼差し。  だが、俺の目的はここからだ。  俺は集まってきた子供たちの中に、ターゲットを見つけた。  斎藤玲奈(さいとう れな)。近所の金持ちのお嬢様で、クラスメイトだ。  彼女はコレクターだが、くじ運が悪く、いつもハズレばかり引いていることを俺は知っている。


「あ、あの……翔くん、それ……」 「欲しい?」 「ほ、欲しい! パパに頼んでも全然出なかったの!」 「いいよ。……ただし」


 俺はニッコリと笑った。営業スマイルだ。


「タダじゃないよ。玲奈ちゃんが持ってる『お年玉の残り』と交換ならいいよ」 「えっ? お金?」 「うん。僕、このカードより現金……あ、ううん、貯金が趣味なんだ」


 玲奈ちゃんは少し迷ったが、目の前のキラカードの魅力には勝てなかった。  彼女は高級そうな財布から、千円札を3枚取り出した。


「これでいい?」 「商談成立だ」


 俺はカードを渡し、3000円を受け取った。  150円の投資が、一瞬で3000円になった。利益率2000%。  周囲の子供たちが「ええー!?」と驚く中、俺は涼しい顔で千円札をポケットにしまう。


【クエスト達成:わらしべ長者】 【報酬:金運LV1 解放】


 これで俺の手元には、3000円という、5歳児にしては莫大な「軍資金」ができた。  この金を使えば、親に頼らずとも参考書が買えるし、将来のための「とある計画(IT株購入の種銭作り)」も前倒しできる。


「翔……おまえ、なんか怖いぞ」


 大輔がドン引きしていたが、俺は気にしない。  俺は駄菓子屋の軒先で、甘いコーラ味のグミを噛み締めながら、未来の資産計画に思いを馳せるのだった。


 現在の所持ポイント:2340 pt  現在の所持金:3350円

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努力還元システムで二度目の人生 ~社畜おじさんが0歳から始める、ポイントで才能を爆買いする「完全無欠」のハイスペックライフ~ @takanoyuichi

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