第3話『公園デビューと、初期投資としてのリアルおままごと』
時は流れ、俺、一ノ瀬翔は3歳になった。 今日は記念すべき「公園デビュー」の日である。
平成初期の公園。 そこは俺にとって、ただの遊び場ではない。新たな「狩り場(ポイント稼ぎのフィールド)」だ。
(ふむ……鉄棒、ジャングルジム、砂場。クエストの宝庫だな)
俺は半ズボン姿で、砂場の前に仁王立ちしていた。 視界には既にウィンドウが出ている。
【クエスト:砂場での造形】 【報酬:出来栄えに応じて変動(最大 300 pt)】
最大300ポイント。 ハイハイ30回分に相当する。悪くない案件だ。 俺はシャベルを握りしめた。だが、すぐに3歳児の未熟な指先の限界に気づく。 イメージ通りに砂が固まらないのだ。これでは高評価(高ポイント)は狙えない。
(……ここで妥協して低いポイントを貰うか? いや、先行投資だ)
俺はためらわずショップを開いた。 離乳食マラソンで貯めたポイントを切り崩す。
【購入:手先の器用さ補正(微) 500 pt】
――チャリーン。
痛い出費だが、これは経費だ。 スキルが反映された瞬間、指先に神が宿った。 俺は猛然と作業を開始する。水場から汲んだ水の配分、砂の突き固め。 数分後、そこには砂場にあるまじき、幾何学的に完璧なピラミッドが完成していた。
【クエスト達成:砂のピラミッド】 【評価:S(オーパーツ級)】 【報酬:300 pt + ボーナス 100 pt】
(よし、400ポイント回収。差引きマイナス100だが、器用さは今後も使える資産になる)
「おい! おまえ、すげーな!」
計算をしていると、鼻水を垂らしたガキ大将――佐藤大輔(5歳)が寄ってきた。 俺のピラミッドを蹴り壊そうと足を上げたが、俺が「基礎工事(水締め)」を完璧に行っていたため、逆に大輔が足をくじきそうになる。
「いってぇ! なんだこれ、石か!?」 「(物理演算済みだ、小僧)」
俺が心の中でほくそ笑んでいると、新たなイベントが発生した。
「だーめよ、大ちゃん! 翔くんがいじめてるみたいじゃない!」
現れたのは、近所の美少女・桜井美咲(5歳)。 彼女は俺の手を引くと、強引にタイヤ遊具の方へ連れて行く。
「翔くん、助けてあげたから、一緒に『おままごと』しましょ! 私がママで、翔くんがパパね!」
出た。幼児界の必修科目、おままごと。 正直、精神年齢38歳の俺には苦行(恥ずかしい)だ。断ろうとした瞬間、ウィンドウが光る。
【クエスト:おままごとの完遂】 【報酬:100 pt】 【ボーナス条件:パートナー(美咲)を心から満足させる +500 pt】
(……ボーナス500だと!?)
俺の目の色が変わった。 ただ遊ぶだけで100。さらに相手を満足させれば500。計600ポイントの大型案件だ。 しかし、5歳児の女子を「心から満足させる」パパ役とはなんだ? 「よしよし」と頭を撫でればいいのか? いや、彼女は少しマセている。もっとリアリティを求めているはずだ。
(……ここも投資のしどころか)
俺は再びショップを開く。 残りポイントを確認し、決断する。
【購入:演技力LV1 300 pt】
――チャリーン。
600ポイントを得るために、300ポイントを支払う。利益は300。 悪くないリターンだ。何より【演技力】は、将来「良い子」を演じて親から小遣いを引き出すのにも使える。
「はい、パパ。ご飯できたわよー」
美咲ちゃんが泥団子を差し出す。 俺は【演技力】を発動させた。 意識のスイッチが入る。俺は今、3歳児ではない。 住宅ローンと残業に押し潰されそうな、哀愁漂う昭和のサラリーマンだ。
「……ああ。ありがとう、ママ」
声変わり前の高い声なのに、なぜかそこには「人生の重み」が乗っていた。 俺は泥団子を見つめ、深く、重い溜息をつく。
「会社で……嫌なことがあってさ。部長のやつ、無理な納期ばかり押し付けてくるんだ。でも、ママの飯を食うと……不思議だな、元気が湧いてくるよ」
俺の背中から滲み出る、圧倒的な疲労感と、家族への愛。 それは前世の俺(田中健一)の実体験に基づく、魂の演技だった。
「パ、パパ……?」
美咲ちゃんが息を呑む。 彼女が求めていた「パパ」の解像度を遥かに超えた存在が、そこにいた。 本物の大人の男だけが持つ、弱さと強さの同居。 そのギャップが、5歳児の彼女の奥底にある「母性」を強烈に刺激した。
(この人……私が支えてあげなきゃ……!)
美咲ちゃんは涙ぐみながら、俺の頭をぎゅっと抱きしめた。
「パパ! よしよし! 私がついてるからね!」 「うう、ママぁ……癒されるよぉ……(苦しい、力が強い)」
――ピロリロリン♪
【クエスト達成:おままごとの完遂】 【ボーナス条件達成:桜井美咲が「理想の夫婦像」を見出しました】 【報酬:計 600 pt を獲得】 【獲得称号:『熟練のヒモ』】
ん? なんか不名誉な称号がついた気がするが、ポイントが入ったので良しとする。
俺たちが熱演を繰り広げているベンチの方では、井戸端会議をしていた母親たちが凍り付いていた。 「ねえ……翔ちゃんのあの表情、うちの旦那が左遷された時そっくりなんだけど……」 「3歳児が出していい哀愁じゃないわよ……」
こうして俺は、貴重なポイントを使ってスキルを揃え、公園という市場(マーケット)で見事に利益を叩き出したのだった。
現在の所持ポイント:2640 pt (支出:800pt / 収入:1000pt)
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