ショートコント『手汗』
氷山アキ
*
緞帳の向こう、ざわめきが聞こえる。
舞台上の僕と相方は、緊張しすぎて全身が汗びっしょり。
この日のために新調した派手な衣装は、この大舞台が終わったらすぐクリーニング行きが決定した。
「ねえ、上手くいくかな……」
震える僕の手を相方がぎゅっと握り締め、「うわ」と声を上げる。
「なに、『うわ』って」
「いや、手汗がえぐいなあって思って」
相方は僕のせいにしたが、手汗がすごいのは相方の方だ。
「人のせいにしないでよ」
「いやいやお前の手汗だって。おかげでさっき付けたハンドクリームが溶けた」
「なら、君のハンドクリームが原因だよ。手汗じゃなくて」
もはや手汗かハンドクリームか分からないほど、僕と相方の手はぬるぬるしていた。
「手、離しなよ。マイク落としたら大変だ」
「本番前に縁起でもないこと言うなっての」
そんなに言うならさっさと手を離せばいいのに、相方はいつまでも僕の手を握り締めている。
「離せってば」
「離したくないんだなあ、これが」
言いながら、僕の指に相方の指が絡み付いてくる。
瞬間、僕は視線を逸らした。
「幕が上がるよ。そろそろ本当に離して」
緞帳の外で司会者が僕たちのコンビ名を呼ぶ。
幕が上がり始めるが、相方はまだ僕の手を離さない。
「……こんな時に言っていいのか悩んだけど」
相方が僕に振り向き、もう片方の手を握ってきた。
「俺、お前のことが……大好きだ!」
僕は真顔で相方に返す。
「僕だって……!」
言い切る前に、幕が完全に上がった。
スポットライトに照らされた僕と相方は、お互いの両手を握り締めたまま、マイクに顔を向けた。
「「どーもー! たった今! 両想いだと判明した俺たち!『バカップル』でーす!!」」
僕と相方は漫才大賞を逃したが、次の仕事の連絡は、思っていたよりずっと早かった。
ショートコント『手汗』 氷山アキ @hiyama_akira
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