第2話
部室の奥にいた小田先輩は、俺たちを見て少し困ったように笑った。
「おいおい、ついに“ボランティア部”が動き出してんのか?」
一般の生徒たちは、ボランティア部の内部事情を知る由もない。ただ、学校の周辺で奇妙な事件が起きると、いつの間にか彼らが現れる――そんな噂だけが、ひそかに広まっていた。
小田は、表情を少し引き締め、声を落として続ける。
「……変な話になるけど、聞いてくれ」
前置きしてから、少し声を落とす。
「三週間ぐらい前だと思う。放課後、図書館にいたら、何か妙な音……バサバサッて、本同士がぶつかるような音が聞こえたんだ」
「それで、『なんだ?』って思ってたら……視界の端で、本が一冊、ひょいって棚から抜けて、ふわーっと浮いたのが見えて……」
手振りで“ふわー”をやってみせる。その仕草が、笑わせるつもりなのか、怖がりすぎての無意識なのか、よくわからなかった。
「最初は誰かのイタズラかと思った。でも、糸とか仕掛けとか……そういうのは特に見当たらなくて」
先輩は目を大きく開き、言葉の最後だけ妙に力を込めた。
「で、見に行ったら、大量の本が……”本の群れ”が、宙を舞ってたんだ。誰も触ってないのに、棚から飛び出して、ぶわーっと漂って……今の俺の動作見たか? 怖いだろ?」
腕を組み直したり、足を小刻みに動かしたり、落ち着きなさそうにしている。冗談っぽくしようとしているのかもしれないけど、その表情を見る限り、本気でビビっているのは明らかだった。
常川が吹き出し、蓮井は軽く眉をひそめる。
「先輩……ホントに見たんスか」
「見たって言ったろ! 俺はな……ほんとにその場にいたんだ」
先輩は腕を広げて強調しつつも、どこか芝居がかっていて、なんだか可笑しい。
清水は、メモをとる手を静かに止めて、小田に質問した。
「……小田さんの他に、その現象を見ていた方はいますか?」
「いや、あの場には俺しかいなかった。……はずだ」
先輩はきっぱり否定したあと、ふいに「待てよ」と口にした。
顎に手を当て、しばし考え込む。
「現象を直接見たわけじゃないけど……うちの部に、一人いるんだ。俺より、今回の件について詳しそうなやつが」
「誰です?」
蓮井が身を乗り出すと、小田は小さく肩をすくめた。
「一年の森って部員だ。アイツ、『旧体育館の二階席に、謎の女子生徒がいる』とか、『幽霊に会った』とか言っててな……正直、ただのオカルトマニアだと思ってたんだが、もしかしたら何か知ってるのかもしれない」
「森って……森圭太のことスか?」
常川がすぐに反応した。
「常川君、知ってるの?」
清水が顔を上げて問いかける。
「知ってるも何も、同じクラスで、部活仲間だよ。……そういえばあいつ、二階席に女子生徒がどうとか言ってた! 今思い出したわ……五月はボランティア部に付きっきりで忙しかったから、すっかり忘れてた」
常川が膝を軽く叩いて、納得したようにうなずく。
小田がドヤ顔で腕を組んだ。
「だろ?信じてなかったけど、やっぱりアイツ、何か見てるんだよ」
「……女子生徒、ね」
蓮井は眉をひそめたまま、視線を落とす。
「とりあえず、その彼に直接話を聞きたい」
清水は胸ポケットにペンをしまい、ノートをぱたんと閉じる。
「じゃあ決まりね。森君に話を聞きましょう」
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