第7話 神様(仮)は、だいたい性格が悪い

その夢は、これまでとは少し違っていた。


いつもの真っ白な空間じゃない。

畳があって、ちゃぶ台があって、やたら生活感がある。


「……なんですか、ここ」


「控え室」


神様(仮)は、ジャージ姿で煎餅をかじっていた。


「神様にも控え室あるんですか」


「あるよ。本番以外は、だいたいこんな感じ」


世界観はもう諦めた。



「で」


神様(仮)は、煎餅の袋をくしゃっと丸める。


「君、能力いらないんだって?」


「はい」


即答だった。


「もう、過去をなかったことにするのは十分です」


「ふーん」


神様(仮)は、じっと僕を見る。


「……本当に?」


「はい」


少しも迷わなかった。



「じゃあ」


神様(仮)は、急にニヤニヤし始めた。


「サービスで、全部話そうか」


「全部?」


「全部」


嫌な予感しかしない。



「まず」


神様(仮)は、指を一本立てる。


「君が最初にもらった能力」


「過去の意識に戻る力……ですよね」


「違う」


即否定。


「正確には」


一拍置いてから言う。


「過去を“なかったことにしても平気だと思わせる力”」


「……は?」


「戻ってやり直せる、と思わせることで」


神様(仮)は、淡々と続ける。


「君は、選択の責任を取らなくて済んだ」


胸が、じくっと痛む。



「次」


二本目の指。


「賢者」


「あ……」


あの、迷ったときに現れて、正解っぽいことを言ってくれた存在。


「彼はね」


神様(仮)は、少しだけ真面目な顔になる。


「君の思考を代行する装置」


「装置……」


「うん。本来は“補助”のはずだった」


でも。


「君は、自分で考える前に聞くようになった」


言葉が鋭い。


「そのうち」


神様(仮)は肩をすくめる。


「考えること自体、やめちゃった」



「……それで」


僕は、喉の奥を絞り出す。


「失敗が続いた」


「そう」


「全部、自分のせいなんですね」


「いや」


神様(仮)は、首を振った。


「半分は、僕のせい」


「え?」


「人間に、便利な力与えたらどうなるか」


神様(仮)は、あっけらかんと言う。


「ちょっとした実験」


「……」


「まあ、だいたい失敗する」


軽い。


軽すぎる。



「でもさ」


神様(仮)は、少しだけ声を落とす。


「君は、途中で変な願いをした」


思い出す。


――賢者が言っていた。

 気づかないと、身につかない。


「『わからなくていいから、自分で気づく状況をくれ』」


神様(仮)は笑った。


「そんなこと言ったの、君が初めて」


「……」


「たいていは」


三本目の指。


「・もっと能力をくれ

 ・失敗を消してくれ

 ・成功ルートを教えろ」


そればっかり。


「だから」


神様(仮)は、じっと僕を見る。


「正直、君には期待してなかった」


「でしょうね」


「うん」


即肯定。



「でも」


ここで、神様(仮)は急に楽しそうになる。


「ここまで追い込まれて」


「寿命削って」


「何も残らないところまで行って」


「それでも」


一拍。


「選び方を変えようとした」


その言葉が胸に深く刺さる。


「……」


「それ、めちゃくちゃ珍しい」


神様(仮)は肩を叩く。


「だから、ボーナス」


「ボーナス?」


「うん」



「本当は」


神様(仮)は、さらっと言った。


「君の寿命、もう一年切ってた」


「……」


「でも」


にやり。


「面白い事例に会えたから帳消し」


「そんな理由で!?」


「神様だよ?」


反論できない。



「さて」


神様(仮)は立ち上がる。


「じゃあ、願いを聞こう」


「元の時代に戻してほしい」


「記憶は?」


少し、考える。


でも。


「……全部、残してください」


「ほう」


「忘れたら、また逃げます」


神様(仮)は満足そうに頷いた。


「いいね」



「最後に」


神様(仮)は、いつもの軽い調子に戻る。


「一つだけ、覚えておいて」


「?」


「芯ってさ」


湯呑みを持ち上げる。


「最初から持ってる人、ほぼいない」


「……」


「選び続けた結果、後からできるもの」


その言葉が、すっと腹に落ちた。



光が視界を覆う。


「じゃ」


神様(仮)の声。


「今度こそ、自分の人生やりなよ」


「……はい」


その瞬間、意識が遠のいた。


そして――


目を覚ますと、そこは見慣れた冴えない二十代の部屋だった。


でも、胸の奥には、はっきりとした感覚があった。


今から何をすべきか。

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