第7話 神様(仮)は、だいたい性格が悪い
その夢は、これまでとは少し違っていた。
いつもの真っ白な空間じゃない。
畳があって、ちゃぶ台があって、やたら生活感がある。
「……なんですか、ここ」
「控え室」
神様(仮)は、ジャージ姿で煎餅をかじっていた。
「神様にも控え室あるんですか」
「あるよ。本番以外は、だいたいこんな感じ」
世界観はもう諦めた。
*
「で」
神様(仮)は、煎餅の袋をくしゃっと丸める。
「君、能力いらないんだって?」
「はい」
即答だった。
「もう、過去をなかったことにするのは十分です」
「ふーん」
神様(仮)は、じっと僕を見る。
「……本当に?」
「はい」
少しも迷わなかった。
*
「じゃあ」
神様(仮)は、急にニヤニヤし始めた。
「サービスで、全部話そうか」
「全部?」
「全部」
嫌な予感しかしない。
*
「まず」
神様(仮)は、指を一本立てる。
「君が最初にもらった能力」
「過去の意識に戻る力……ですよね」
「違う」
即否定。
「正確には」
一拍置いてから言う。
「過去を“なかったことにしても平気だと思わせる力”」
「……は?」
「戻ってやり直せる、と思わせることで」
神様(仮)は、淡々と続ける。
「君は、選択の責任を取らなくて済んだ」
胸が、じくっと痛む。
*
「次」
二本目の指。
「賢者」
「あ……」
あの、迷ったときに現れて、正解っぽいことを言ってくれた存在。
「彼はね」
神様(仮)は、少しだけ真面目な顔になる。
「君の思考を代行する装置」
「装置……」
「うん。本来は“補助”のはずだった」
でも。
「君は、自分で考える前に聞くようになった」
言葉が鋭い。
「そのうち」
神様(仮)は肩をすくめる。
「考えること自体、やめちゃった」
*
「……それで」
僕は、喉の奥を絞り出す。
「失敗が続いた」
「そう」
「全部、自分のせいなんですね」
「いや」
神様(仮)は、首を振った。
「半分は、僕のせい」
「え?」
「人間に、便利な力与えたらどうなるか」
神様(仮)は、あっけらかんと言う。
「ちょっとした実験」
「……」
「まあ、だいたい失敗する」
軽い。
軽すぎる。
*
「でもさ」
神様(仮)は、少しだけ声を落とす。
「君は、途中で変な願いをした」
思い出す。
――賢者が言っていた。
気づかないと、身につかない。
「『わからなくていいから、自分で気づく状況をくれ』」
神様(仮)は笑った。
「そんなこと言ったの、君が初めて」
「……」
「たいていは」
三本目の指。
「・もっと能力をくれ
・失敗を消してくれ
・成功ルートを教えろ」
そればっかり。
「だから」
神様(仮)は、じっと僕を見る。
「正直、君には期待してなかった」
「でしょうね」
「うん」
即肯定。
*
「でも」
ここで、神様(仮)は急に楽しそうになる。
「ここまで追い込まれて」
「寿命削って」
「何も残らないところまで行って」
「それでも」
一拍。
「選び方を変えようとした」
その言葉が胸に深く刺さる。
「……」
「それ、めちゃくちゃ珍しい」
神様(仮)は肩を叩く。
「だから、ボーナス」
「ボーナス?」
「うん」
*
「本当は」
神様(仮)は、さらっと言った。
「君の寿命、もう一年切ってた」
「……」
「でも」
にやり。
「面白い事例に会えたから帳消し」
「そんな理由で!?」
「神様だよ?」
反論できない。
*
「さて」
神様(仮)は立ち上がる。
「じゃあ、願いを聞こう」
「元の時代に戻してほしい」
「記憶は?」
少し、考える。
でも。
「……全部、残してください」
「ほう」
「忘れたら、また逃げます」
神様(仮)は満足そうに頷いた。
「いいね」
*
「最後に」
神様(仮)は、いつもの軽い調子に戻る。
「一つだけ、覚えておいて」
「?」
「芯ってさ」
湯呑みを持ち上げる。
「最初から持ってる人、ほぼいない」
「……」
「選び続けた結果、後からできるもの」
その言葉が、すっと腹に落ちた。
*
光が視界を覆う。
「じゃ」
神様(仮)の声。
「今度こそ、自分の人生やりなよ」
「……はい」
その瞬間、意識が遠のいた。
そして――
目を覚ますと、そこは見慣れた冴えない二十代の部屋だった。
でも、胸の奥には、はっきりとした感覚があった。
今から何をすべきか。
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