第6話 寿命が残り一年でも、選ぶのは俺だ
目を覚ますと、視界がやけに低かった。
天井が近い。
布団が小さい。
手も、足も、やたら短い。
「……ああ」
声まで高い。
ここは――
小学六年生の自分の部屋だった。
*
神様(仮)は、もう説明をしなかった。
たぶん、説明する必要がないところまで来てしまったのだ。
「残り寿命、どれくらいですか」
僕が聞くと、神様(仮)は、スマホを取り出した。
「えーっと……」
画面をスワイプする音。
「だいたい、一年ちょいかな」
「……思ったより、ありますね」
「基準が狂ってるよ」
軽く突っ込まれるC神。
*
一年。
人生としては短すぎる。
でも――
小学六年生として考えると妙に重い数字だった。
受験もない。
就職もない。
恋愛なんて言葉すら知らない。
「……何も変えられない」
僕がそう呟くと、神様(仮)は首を振った。
「違うよ」
「?」
「何も変えなくていい」
その言葉に胸がざわつく。
*
学校。
教室は相変わらず騒がしかった。
誰が誰を好きだとか、ゲームの話だとか、どうでもいいことで盛り上がっている。
その中で僕は気づく。
――選択肢がない。
部活?
親が決める。
進学?
まだ先。
友達関係?
流れで決まる。
「……楽だな」
ぽつりと本音が漏れた。
今までの僕は、ずっとこうだった。
選ばなくていい場所に逃げて、流されて、「仕方なかった」で済ませてきた。
*
放課後。
校庭の隅で、一人、鉄棒にぶら下がる。
逆上がりは相変わらずできない。
「できないな」
でも、不思議と悔しくなかった。
その瞬間、はっきりとわかった。
――成功とか失敗とか、今の俺には関係ない。
あるのは、どう生きるかだけだ。
*
夜。
神様(仮)が、いつもより静かな声で言う。
「能力、使う?」
「……いいえ」
即答だった。
「もう、これ以上やり直したくないです」
「そっか」
神様(仮)は、少しだけ寂しそうに笑った。
「じゃあ、この一年、何をする?」
僕は、少し考えてから答える。
「決める練習をします」
「ほう?」
「小さなことでいいから、自分で理由をつけて選ぶ」
今日は誰と話すか
何を読んで寝るか
嫌なことから逃げるか、向き合うか
結果は、どうでもいい。
「説明できるかどうか」
それだけを基準に。
*
翌日から僕は変な子になった。
給食のメニューを理由つきで選ぶ。
「今日はこれ。昨日、揚げ物だったから」
遊びの誘いを断ることもあった。
「今日は一人でいたい」
誰かに合わせない。でも、敵にもならない。
ただ、自分で決める。
*
ある晩、神様(仮)がぽつりと呟いた。
「……不思議だね」
「何がですか」
「君、もう寿命の話、気にしなくなった」
言われて、初めて気づく。
確かにそうだった。
一年後に死ぬかもしれない。
でも――
怖くない。
「たぶん」
僕は言う。
「もう、誰の人生を生きてるか、わからなくなるのが嫌なんです」
神様(仮)は、しばらく黙っていた。
そして、ニヤッと笑う。
「……いい顔になったね」
*
その夜、夢の中で僕は“元の自分”を見た。
冴えない二十代。
迷ってばかりで、正解を探して、何も決められない男。
でも。
「――あれでも」
不思議と嫌いじゃなかった。
「今度は、ちゃんとやれよ」
そう言って目が覚めた。
翌朝。
空は、やけに澄んでいた。
そして、僕は理解していた。
もう、この能力は要らない。戻る準備はできている。
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