第3話 日曜日の先輩は
日曜日。休日二日目の朝、電話が鳴って目が覚めた。
私は枕元に置いたスマホを右手で掴む。
(右手がある)
ホッとして画面を見ると、上司の名前が表示されていた。
自分の処分が決まったのかもしれない。私は意を決して電話に出た。
「あっ! でてくれた。よかった!」
予想外の言葉に私は戸惑ってしまった。
「よかった?」
私は謹慎中じゃないのだろうか。
「いや、急で本当に申し訳なんだけど、今日出勤してくれないか?」
「私、出ていいんですか? 問題起こして出禁じゃないんですか?」
「おいおい。冗談言っている場合じゃないんだよ」
あきらかに上司は必死だった。
「午後だけでもいいからさ」
(もしかして、やり直せた?)
金曜日の私の右手を切り落としたことで、罵詈雑言と身バレの写真投稿は本当になかったことにできたのかもしれない。
「何かあったんですか?」
探るように上司に訊ねる。
「あいつが出られないんだよ」
言いにくそうに、先輩の名前を言った。
「わけがわからなくて。出勤時間にさ、右手が切られたから仕事ができないって泣きながら電話してきたんだよ。親御さんとも話したんだけど、右手がない、右手がないと騒いで、病院に連れて行かれたらしい」
「本当にないんですか?」
「いや、親御さんは右手はあると言っているんだ。それに、右手を切ったら職場に電話する前に救急車呼ぶだろ? わけがわからないんだよ」
上司のため息が聞こえる。
「どうしちゃったのかな」
私は神様の言葉を思い出していた。
ーー彼女の願いを叶えたけど思ったんです。これはフェアじゃない
ーーだってあの先輩、ママに似てる
先輩の右手もナタで切り落としたのだろうか。
自分の右手を切り落としたママに似た、ヒステリックな先輩。
先輩は返してもらえなかったのだろうか。
「今日、出られます。今から準備していきます」
私はそう答えて電話を切った。
(挨拶から変えてみよう)
しっかりと伝わるように好印象な挨拶をしよう。先輩が注意してくれた通りに。
スマホを握る右手を少し見つめてから、静かに、静かに、笑った。
真っ暗なスマホの画面には、勝ち誇った私の冷笑が映っている。
(さて。着替えよう)
今から仕事に向かわないといけない。
スマホを枕元へ戻そうとした時、ふと右手に違和感を覚えた。輪郭が曖昧で、どこかぼやけている。目を凝らしても、はっきりしない。靄がかっている。
(二日酔いかな)
そう思うことにして、私はそのまま画面を伏せた。
【ホラー】過去に手を切られる 花田(ハナダ) @212244
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