第7話 大穴なのに大本命だよ、シンシアさん

 縦穴の底から生還したシンシアとふたりは、すこし移動して安全な場所を確保してから休憩がてらプチ講習会を開くことになった。

 携帯食料にがっつくふたり。よっぽど腹を空かせていたらしい。


 ちなみにシンシアは名乗ることを禁止して、それぞれを剣士、魔道士、職員と呼び合うことに決めた。名前を聞いてしまえば、報告書に詳細を書かねばならない。この手の裏取りは非常に面倒くさいことで知られている。

 シンシアは定時で帰りたかった。


「現在の学説ではダンジョンとは巨大なモンスターの一種だと考えられています。坑道内が突然、変化するのも生き物だからなのでしょうね」


「つまり冒険者をより効率よく階下へ誘い込むために——」


「湧き水でお風呂が沸かせるって噂を利用したの?」


「そこまで計画的ではないにせよ、一時期、湧き水の場所に冒険者が群がったのは事実なので、それを狙われたのでしょう」


 ダンジョンの生々しい生態を知り、ショックを受けるふたり。

 新人の受講生にはありがちなことだ。


「それにしてもあなた方は運が良かった。魔道士さんの『空中浮遊』が間に合わなければ、おそらくもっと階下まで落ちていたでしょうね」


「もっと階下したって……A級モンスターがうじゃうじゃしてる……」


 剣士の少年はゴクリと生唾を飲んだ。

 魔道士の少女も肝を冷やして、ぎゅっと魔道書を抱きしめている。


「しかし気になるのは、この十階層です。縦穴どころか、見覚えのない横穴もたくさん——」


 ゴゴゴゴゴ……。

 シンシアが脳内マップで十階層の新しい地形を照会していると、ダンジョン内が激しく振動し始めた。それは地表で感じた揺れよりも激しく、まるで足元で巨大な何者かが蠢いているかのようだった。


「じ、地震っ?」


 魔道士が身動きの取れない剣士の頭を抱いて庇っている。

 彼もまたそんな彼女の震える手を握りしめた。


 シンシアは近くの壁に空いた横穴から気配を感じ、ランタンを掲げてみる。

 するとその気配は急速に遠ざかっていった。

 しかし次の瞬間。

 遠ざかった気配は、別の横穴から最接近しているように感じた。

 それはちょうどシンシアの真後ろから——。


「職員さん!」


 少女の叫びに咄嗟に振り向いたシンシアは、反射的に円盾を構えていた。

 ただそれでも巨大な何者かの進撃は止められない。

 まるで破城槌でもぶちかまされたみたいに、シンシアの身体は吹き飛ばされた。


「……ててて。バフ屋様々ですね、きょうは」


 ボロ雑巾のようになりながらも立ち上がったシンシアの視界が捉えたものは、樹齢千年の巨木をも連想させるほどに太く、横穴に潜み、いまだその全容を晒し切れていない長い胴体を持った一匹のミミズだった。


「モンスター脅威度A+、ジャイアントワーム……」


 目も耳もないツルンとした頭部に、凶悪なあぎとだけがポッカリと空いている。

 いままさにシンシアたちを呑み込まんと開いた、奈落への縦穴のように。


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