第6話 気は心だよ、シンシアさん
この二人もまた五階層の湧き水の噂を聞きつけて探検していたという。
岸壁を登り沢を見つけたものの、少年が水浴びをしようと飛び込んだ瞬間に底が抜けてしまったものだから、少女も慌てて後を追った。
階下の底が抜け続け、いよいよ十階層まで落ちてきたとき、少女の『
「折れてますね」
「やっぱり?」
剣士と思われる少年は左足を負傷していた。
すねの半ばあたりがりんご大に腫れており、肌も紫色に染まっているが、彼らもまた身体強化のバフを掛けているので、この程度で済んだのだ。
「ごめっ、ゴメンねっ。私が愚図だからっ」
「きみのせいじゃないよ。おれが湧き水に飛び込んだりしたから……」
お互いがお互いをかばい合うようにシュンとする子供たち。
可愛いやら、叱ったほうがいいものやら。
「五階層のあれは、おそらくダンジョン自ら仕掛けたトラップですね」
「トラップ? ダンジョン自らって?」
「あの……私たち講習とか受けてなくて……」
クエスト成功率や冒険者の生還率そのものを向上させるために、ギルドは年に数回、講習会を開いている。ダンジョンやモンスターの知識を深め、ベテランのノウハウなども学べる有意義なセミナーなのだが、如何せん有料なので受講しない新米冒険者も多い。
シンシアは短剣を鞘ごと添え木代わりにして、少年の足を縄で固定する。
そのあとトランクから背負子を取り出した。
ダンジョン探索がしばしばレスキュー任務になることもあるため常備しているが、明らかにトランクの見た目のサイズと容量が矛盾していることに気づいた魔道士の少女は、目をランランと輝かせている。
「それってもしかして『
シンシアは無言でニコッと笑うと、それを肯定も否定もしなかった。
「とりあえず上に出ましょう」
シンシアは少女を先にロープで登らせて、登り切ったのを確認すると、少年を背負って登り始めた。「なんか……すみません」と己の不甲斐なさに少年が押しつぶされそうになっている。
「おれなんかのために大事な武器を……」
「謝る必要はありませんよ。キルドに登録したときに共済金を払ったでしょ。こういうときのための掛け金です。いまは立派なS級の冒険者たちも駆け出しの頃はこんなもんですよ」
「そ、そうなんですか?」
「ええ」
嘘も方便。
シンシアは、彼からは顔が見えないのをいいことに舌を出した。彼女にS級冒険者の知り合いなんていない。
いたら同僚から「合コン開け」とせっつかれてると思う。
「それに私は冒険者じゃありませんから、戦闘はしません。剣も念の為に持ってるだけですのでお気遣いなく」
「なんか……おれよりも冒険者に向いてると思うんだけど……」
小柄な少年とはいえ、人間ひとりを背負ってロープで断崖を登ってゆくシンシアに彼は驚きを隠せない。しかしシンシアはにべもなく。
「やですよ、こんな不安定な職業。あなたも帰ったら彼女との人生を真剣に考えなさい」
と言った。
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