第3話 出張だよ、シンシアさん
「聞いてた。ギルマスの話でしょ? 会計局も大変ね」
シンシアは机上に積み重なった大量の手紙をチェックするため、カフェラテをペーパーナイフに持ち換えた。
彼女の所属は査定局といい、ギルド運営の根幹に携わる部署のひとつである。
営業から回ってきた依頼の内容を精査し、適切なクエストランクを設定することが主な業務内容であるが、クエスト失敗の原因追求であるとか、新規ダンジョンの脅威度の査定任務など、取り扱う案件は多岐にわたる。
それにしても——。
「多いわね、クレーム……」
いま確認している手紙のほとんどが、未達ミッションに対する依頼主からの苦情や、再調査を要請するものだった。
秋の終わり頃から少しずつ目立ってはいたが、ここ最近は顕著である。
「最近さぁ。受付でも見かけなくなったパーティとか多いのよね~」
「……よその領地へ移ったってこと?」
「わっかんな~い」
ふたりがいまいち噛み合ってない会話をしていると、背後から巨大な気配がした。
シンシアが振り返ると、そこには一匹の屈強なオーク……もとい、ガッシリとした体躯を持つ男性職員が立っていた。
「局長、おはようございます」
「うむ。おはよう」
おなじ局長でもこちらは査定局の長である。つまりシンシア直属の上司だ。
「最近、西地区ダンジョンからの帰還率が下がっている。ギルマスが役人から関所の入出記録を聞き出したことで確認が取れたんだが——」
「ふー、じゃなくて、あの接待はそのために……」
同僚の表情は複雑だった。
「ああ。普段、各業務の実績を照らし合わせるなんて作業はしてこなかったからな。サブマスが最初に気づいたらしい」
「さすがサブマス……」
話を聞いていたすべての職員がため息のように口にする。
豪放磊落なギルドマスターに切れ者のサブマスターは付き物だが、当支部においてもそれは例外ではない。
「シンシア君」
「はい」
「西地区ダンジョンの再査定——頼めるか」
オークのような上司が真剣な眼差しでシンシアを見つめる。
同僚は心配そうに、彼女の手を握った。
性格は正反対。チャラチャラしているし軽薄そうに見えるが、彼女のこういうところがシンシアはたまらなく好ましい。
「出張代……出ますよね?」
眼鏡をクイッと上げて、シンシアは笑みを浮かべた。
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