第2話 出勤だよ、シンシアさん

 ようやく空が白んで来た頃、シンシアは乗合馬車に揺られていた。

 きょうは一際冷えるので、毛皮を着て家を出た。といってもお貴族さまが着るような豪華なコートとかではない。実用一辺倒の防寒着である。むかし自分で狩った一角イノシシを仕立ててもらったものだ。

 フードを目深に被って、出稼ぎの男たちの隙間に収まっている。


 馬車に揺られること小一時間。

 都心の関所が見えて来た。

 ギルドの身分証は持ってるが長距離通勤も二年を超えると、通行審査など顔パスである。


「シンシアちゃん、いつも早いね。そろそろ街に越して来たら? 毎日キツイでしょ」


 顔見知りになった門番のおじさんたちからはそう言われるが、都会の喧騒でやっていけるほどの自信はまだシンシアにはない。


「あははぁ……考えときます……」


 これ以上、詮索されたくないので愛想笑いを残して颯爽と人混みの中へ消えた。

 シンシアが足早に向かったのは、小さなカフェレストラン。

 冬の時期は、この店のクラムチャウダーのポットパイを食べてから出勤するのが定番になっている。冬のアサリは身が小さい代わりに味が濃い。

 冷え切った身体に染み渡る美味しさである。


 一緒に注文したカフェラテ(『保温ウォーム』の魔法が掛けられた耐水紙の使い捨てカップ入り)を片手に店を後にすると、数分も歩けば彼女の職場である冒険者ギルドの建物が見えてくる。

 始業までまだ時間はあるが、集会場にはすでに何人もの冒険者の姿があった。


 シンシアは彼らの横をすり抜けて、通用口からバックヤードへと進む。

 すぐさま聞こえてきたのは、会計局長の金切り声だった。


「ちょっと皆さん、ちゃんと健康診断受けて来てくださいよ! 予約してあるんですからね、枠空けると医薬ギルドに私が怒られるんだから!」


 各職員のデスクに受診票の入った封筒が配られる。

 出勤したばかりのシンシアの机にも、すでに置かれていた。彼女はそれを一瞥すると、会計局長に見つからないようそっとデスクの引き出しにしまう。


「局長! そんなことより、ギルマスから先月の接待費用回ってきてますけど、こんなの経費で落ちませんよ。なんとか言ってください!」


「先月のって……あぁ、あの役人のヤツか」


「ふーぞくですよ、ふーぞく! ギルドの金で役人に女抱かせるくらいなら、私らにボーナスくださいよ!」


「わ、わかった、わかった。後でちゃんと言っとくから、とりあえず立て替えといて」


「もぉ~。あ、シンシアおはよっ。ねえ、ちょっと聞いてよ、ギルマスがさ~」


 そういって近づいてくるのは、野暮ったいシンシアとは対照的な非常にフェミニンな女性職員だった。会計局に所属する彼女はギルド職員の花形である受付嬢もしており、胸元や太ももが強調されたとてもセクシーな制服を身にまとっている。

 同性でありながらシンシアはいつも目のやり場に困っていた。

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