エピローグ
あの夜の怪事から数日後。
わたしは学友から清野さんがしばらく休学するらしいということを聞いた。
正直、ほっとしたのは確かだが、また変な呪いをかけられるのではという漠然とした不安は胸の奥に残っている。
人を呪えば、穴ふたつ。
できれば、今回の件で学習してほしい。
一方のわたしだが、ゴールデンウィーク明けから学生生活にちょっとした変化が起こった。
別に、彼氏ができたわけでは、ない。
「それでは松岡さん、こちらの本の五十七ページから六十五ページまでを七十部コピーしてください。それが終わったら……」
安楽椅子に深々と座りつつ、細く美しい指を指し示しながらフレイザー先生がわたしにてきぱきと指示を出している。
五月から、わたしはフレイザー先生のティーチングアシスタントになった。
いわゆる、大学の先生の雑用係である。
「本来、天の逆手は危険な呪ですが、耳鳴りだけで済んだ松岡さんは呪に強い耐性があるように思えます。わたしの研究テーマにぴったりです」
などと言っていたが、実際のところはわからない。
そういえば、フレイザー先生は言っていた。
「わたしはデータを求めて動きません。データは向こうからやってくるからです」
ひょっとしたら、わたしもそのデータのひとつなのだろうか。
なんてことを思いながら、わたしは本をコピー機の上に乗せ、ボタンを押した。
『フレイザー先生は動かない』「天の逆手」 神田 るふ @nekonoturugi
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