第4話 安楽椅子の瞑想者

 危ない、危ない。


 フレイザー先生の雰囲気に、思わず呑まれてしまっていた。


「あ、あの。わたし、この大学の文学部の二年生で、松岡と言います。ご相談ごとがあって参りました」


「二年生ですか。基礎カリキュラムの中で私が受け持っている地域活性化文化論には出席していないようですが」


 ギクリ。

 

 痛いところを突かれた。

 

 この大学は一年から二年まで基礎カリキュラムを、三年から四年にかけて専門カリキュラムを受講する。

 フレイザー先生は基礎カリキュラムにある地域活性化文化論という講座を持っているが、わたしは受講していなかった。

 元々、わたしは他県からこの大学に進学した身である。この地に思い入れがなかったので選択しなかった。

 こんなところでツケが廻って来るとは、何たる運命の皮肉であろうか。

 この話はここまで……と覚悟したわたしに、フレイザー先生は穏やかな微笑で応えた。


「別にかまいません。あれは暇つぶしと給料のためにやってる講座ですし。さて、どのような相談でしょうか、松岡さん。残念ですが、色恋沙汰の話には詳しくありませんよ」


 いや、その美貌なら引く手あまたでしょう。

 そっちはそっちで聞きたい話題だが、今はわたしの耳鳴りの相談だ。


「あの。不黎座先生にご相談する内容ではないのかもしれないのですが……」


 とりあえず、そう前置きをして、わたしは自分の身に起こっている怪事を離し始めた。

 フレイザー先生は安楽椅子のひじ掛けに両肘を乗せ、両手を軽く合わせた状態のまま、まるで瞑想でもしているかのように軽く目を閉じながらわたしの話を聞いていたが、わたしの話が終わるのと同時に両手を離し、ピンと右手左指を高く上げた。


「松岡さん、その音は、どんな音ですか?パチパチ?パンパン?バチバチ?」


「いえ。もっと軽い音です。えーと、ぱたぱたというか、ぺちぺちというか……。でも、人の肌がかすかに当たるかのような、そんな音のように聞こえます」


 正直、真剣に聞いてくれていたことに驚いた。

 こんな話、まともに聞いてくれるとは思ってもみなかったからだ。

 わたしの答えにうなずきながら、フレイザー先生はスマホを取り出し、何やら確認し始めた。


「よろしい。松岡さん、よければ明後日の夜、研究室に来れますか?ひょっとしたら、その音から貴女を救うことができるかもしれません」

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