第5話 幕間〜水原玲奈〜

恋愛を数値化する女は…この学校で唯一、ただ一人しかいない。


 水原玲奈は、恋愛を信じていない。

 正確に言えば、再現性のないものを信用しない。


     *


 夜。

 部屋のデスクには、ノートパソコンとスマホが並んでいた。


 画面には、いくつものフォルダ。


 日付や名前、相関図。


 人の感情が、データとして整理されている。


     *


 柳瀬という存在は、実験体としては優秀だった。


 外見も話術も…自己肯定感の高低差も。


 女子生徒への影響は、予測通りに拡散した。


 特別扱いという餌は、依存を生む。


 その後に切る。


 それだけで、感情は暴走する。


 刺傷事件?

 想定内。


 ただ一つだけ、計算外があった。


     *


 葉風涼。


 彼は、数値に乗らない。


 恋愛反応、ゼロ。

 所有欲、ゼロ。

 承認欲求、低。

だれもが依存するSNSすら、ただの飾り。


 異常値だ。


 人は、何かを欲しがるから操れる。


 欲しがらない人間は…予測不能で、不測の事態しか生まない。


     *


 玲奈は、クラスメイトたちを思い浮かべる。


 桐谷澪。

 依存型。

 回復率、低。


 相沢菜月。

 自己防衛型。

 反動、強。


 白石ひより。

 危険値、高。

 行動力、異常。


 それぞれ、反映する数字は正直だった。


数値化されたそれらは言葉が無くても、語る。


 感情は、嘘をつくが、行動は裏切らない。


そして人が使う言葉は、正確には語らず…自身を含めて、騙るものだ。


     *


 玲奈は、スマホを操作する。


 匿名アカウント。

 投稿履歴。


『生きてるよ』


 短い一文。


 それだけで、特定の人は希望を持つ。


 希望は、最も扱いやすい…毒だ。


     *


 玲奈は、自分が冷酷だとは思っていない。


 むしろ、感情に振り回されない分、誠実だ。


 恋愛は、人を壊す。


 ならば、壊れる前に形を知り、形作る過程を観測する。


 それが、彼女の倫理だった。


     *


 画面に、新しいデータが追加される。


【対象:葉風涼】

・拒絶傾向:強

・関与回避:極

・影響力:未測定


 玲奈は、ほんの一瞬だけ考えた。


 この数値が、もし動いたら?


 その時、本当に危険なのは誰か。 


そして彼の過去に何があったのか…想像は想定にしかならない、だから思考を切った。


     *


 パソコンを閉じる。


 部屋の明かりを消す。


 玲奈は、独り言のように呟いた。


「……初めてを壊すのは、いつだって恋じゃない」


 それは、実験結果に基づいた結論だった。

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純愛成分は必要な分だけで良い…だけど初めては、お前じゃ無理だ 火猫 @kiraralove

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