第2話 ドイツの翼 メッサーシュミットBf109

「うん?」


 颯太が考え込んでいた時、隣の格納庫が騒がしいことに気づいた。

 海外からの招待チームであることを思いだし気になって様子を見に行く。

 中にあったのは灰色と黒の迷彩が施されたドイツ空軍戦闘機メッサーシュミットBf109だった。

 第二次大戦中、ドイツ空軍の主力戦闘機として三万五千機も作られた。

 ちなみに、この生産数は世界記録で未だに破られていない。

 数だけでなく性能も良く液冷エンジンDB601が出す高速を利用した一撃離脱戦法で活躍した名機だ。

 三式戦闘機とよく似た姿の、綺麗な飛行機だ。

 そのメッサーシュミットの周りでドイツの整備士たちが慌てている。


「エンジンの異常振動が収まらない。どこが異常なんだ」


 どうやら異常が発生して原因が分からず、混乱しているらしい。


「乾いたヨーロッパと、湿った日本の空気ではエンジンも機体も調子が変わってしまうからな」


 颯太も海外のレースで、砂漠や熱帯雨林のレース場で苦労をしたから、思わず共感して言葉が出る。

 どこが悪いのか、日本の気候か、エンジンそのものか、彼らはわからなくなっているのだろう。


「すまないが、ちょっといいか」


 そう話しかけると、苛立った視線を浴びせられるが、颯太は気にせず続けた。


「よかったらエンジンに触れさせてくれ。原因が分かるかもしれない」


「日本人にドイツ機が分かるのか?」


 値踏みするような視線をドイツの整備士は颯太に浴びせるが、颯太は怯まない。


「整備した機体のことなら多少は」


「……やってみろ」


 颯太は始動中のエンジンに手を触れた。

 手袋越しに伝わる振動。

 上の方だけ異常に強い。


「このロッドベアリングが削れて隙間ができて動いてる。多分四番。それと一気筒死んでる。七番だ。調べてくれ」


 颯太の指示で点検が始まった。

 彼らはプラグを抜き、圧縮を確認する。


「圧縮を確認。異常なし」


「プラグも異常ない」


「となると燃料噴射だな」


 颯太は手早く燃料噴射装置を外し、調べる。


「やっぱり、故障している」


 メッサーシュミットのDB601は各気筒に直接燃料を噴射する精密な構造を持ち、急降下でも息切れしない。

 その代わりに、構造が複雑で非常に故障しやすかった。


「分解洗浄する」


 しかし、颯太は躊躇なく手早く燃料噴射装置を分解作業に入る。

 大気圧の十倍の圧力を超えて燃料を噴射。さらに数百度の爆発に耐える。

 それを毎分数千回行う装置。

 現代でも専門資格を持った人間でなければ不可能だ。

 だが颯太は、数分で噴射装置を分解。


「これだな」


 汚れた部分を薬液で取り去りパーツクリーナーで綺麗にする。

 最後に表面にグリスを付け、組み直して元に戻した。


「取り付けてくれ。そっちはどうだ」


「あんたの言ったとおりだ! クランクロッドベアリングが削れて隙間ができている!」


 遠くからでも明らかに薄くなったベアリングを、床に落とした。


「直せるか?」


「部品の交換だけだ! すぐに終わる!」


 交換部品を受け取ると、手早く装着して組み立てる。


「準備完了! カバーも取り付けた!」


「よし、エンジン始動!」


 修理後、エンジンは滑らかに回り出した。

 ドイツ人たちは、喜ぶと同時にどよめいた。

 日本人が、自分たちでは明らかに出来なかった故障原因を短時間で見抜き、修理した腕は流石としか言いようがなかった。

 誰もが颯太の方を見て、驚きの色を浮かべる。

 しかし、颯太はドライだった。


「驚いてる暇はないぞ。すぐ展示飛行だろ」


 颯太の言葉を聞いて、彼らは発進準備を始めた。

 DB601の轟音に背を向けて颯太は自分の格納庫に戻っていく。


「メッサーシュミットBf109に触れた」


 格納庫を出て、思わず呟いた颯太は自分の顔が緩むのを感じた。

 名機に触ることができて感動し喜んでいた。

 ドライだったのは照れ隠しのため、顔が笑みで崩れるところを見られたくなかったからだ。

 自分の格納庫に戻り、喜びも落ち着いたとき、ちょうど、飛燕、「熱田」エンジンのテスト運転が行われていた。

 快調に回っていた時、「ガキン」という音が鳴り響いた。

 颯太の耳にも鋭く響き、耳鳴りで頭がぐるぐる回る。

 それでも颯太は駆け寄る。


「エンジン停止! すぐ分解する!」


 悲鳴のような声で颯太が命じた後、エンジンに取り付き、上部カバーを開く。

 カバーが開くと、颯太は顔を歪めた。


「クランクシャフトが折れてる……」

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