第3話 折れた心臓

 焦げたエンジンオイルの煙が晴れたあと現れたエンジン中央部の銀色の部品。

 ピストンの力をプロペラに伝えるクランクシャフト。

 それが折れて周りに食い込んでいる。

 前から折れ始め、悲鳴を上げていたのだろう。

 テスト開始時に感じた違和感はこれだったのだ。


「畜生」


 あのとき気がついていれば、シャフトの悲鳴に気がついていれば、避けることが出来た。

 製造が難しい心臓部であるが故、クランクシャフトに予備部品はない。

 それ以上にエンジンの損傷が酷く修復不能。

 全員が最悪の結末に、これまでかけてきた時間が全て水の泡になったことに愕然とした。


 中でも一番ショックだったのは颯太だった。


 飛燕の実機のある各務原の博物館に通い、各部品の寸法を測って複製することを繰り返して製作してきただけに、飛べないことが誰よりつらかった。

 そして展示飛行は二時間後に迫っていた。

 見学に来ていた一部のファンや観客達も、異常に気がつき集まってきた。

 それだけ飛燕の飛行が注目され、期待されていたということだ。

 だが、責任者として言わなければならない。


「展示飛行は中止……」


「よお、日本人。おかげで飛べた。助かったよ」


 その時、素晴らしい展示飛行を終えたドイツチームがやってきた。

 観客の歓声に迎えられ、キャノピーを右に倒して凱旋するメッサーシュミットが格納庫前を通る。

 整備士たちは、颯太にお礼を言うために声をかけてきた。


「どうした?」


 言葉は分からなくても深刻なことに気がついたドイツ人達は神妙な面持ちで尋ねた。


「クランクシャフトが折れて動かせない」


 事情を聞いたドイツ人整備士達は笑って言った。


「エンジンなら替えがあるぞ」


 そう言って指さしたのは、先ほどまで飛んでいたメッサーシュミットだった。

 颯太はすぐにその意味に気がついた。

 熱田はDB601のライセンス生産品。

 ほぼ同型であり、多少の調整で載せ替えは可能。

 目の前のメッサーシュミットのエンジンを飛燕に乗せ換えて、飛ばす。

 それが、その場で颯太とドイツ人整備士が立てた計画だった。


「ありがとう……」


「ハンスだ。礼は後で。時間が無い」


「わかった、ハンス」


 颯太は振り向いて部下達に命じた。


「このメッサーシュミットのエンジンを使って飛燕を飛ばす! みんな交換開始しろ! あと二時間で離陸だ!」


「はい!」

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