第4話
翌日の放課後。
空は薄い雲に覆われていて、光がやわらかかった。
彩葉は、ゆなと昇降口で別れたあと、ゆっくりと歩き出した。
(……今日も、やってるのかな)
校庭で聞いたメドレーの余韻は、まだ胸の奥に残っている。
あの曲が吹奏楽で流れた瞬間の衝撃。
太鼓の音が風に乗って届いたときの、あの温かさ。
気づけば、体育館のほうへ向かっていた。
昨日よりも、足取りが少しだけ軽い。
でも、心臓はいつもより速く打っている。
体育館の前に着くと、扉が少しだけ開いていた。
中から、かすかに音が漏れている。
ドン……
タッ……タッ……。
昨日の合奏とは違う。
もっと近くて、もっと生の音。
(……打楽器の練習?)
彩葉は、扉の前で立ち止まった。
中をのぞく勇気は、まだない。
でも、逃げる気にもなれなかった。
そっと、扉の隙間に視線を向ける。
中では、数人の先輩が練習していた。
ティンパニの前に立つ先輩。
スネアを叩く先輩。
シンバルを持って、タイミングを確認している先輩。
みんな、真剣な表情だった。
(……すごい)
昨日の校庭とは違う。
もっと近くて、もっと静かで、もっと本気の音。
ティンパニの先輩が、ゆっくりと音を鳴らした。
ドン……
ドン……。
胸の奥が、また熱くなる。
昨日と同じ場所が、じんわりと震える。
(……この音だ)
彩葉は、扉の影に隠れたまま、しばらく動けなかった。
ただ、音を聞いていた。
先輩たちの声が聞こえる。
「そこ、もうちょい弱く」
「うん、次合わせるね」
「テンポ、ちょっとだけ上げよっか」
楽しそうでもあり、真剣でもある。
その空気が、なんだか羨ましかった。
(……いいな)
昨日と同じ言葉が、胸の中でそっと浮かぶ。
でも、扉を開ける勇気はまだない。
声をかけるなんて、もっと無理。
彩葉は、そっと一歩だけ後ずさった。
音はまだ続いている。
でも、今日はここまで。
(……また、来てもいいのかな)
自分でも驚くような考えが浮かぶ。
昨日よりも、ほんの少しだけ前に進んだ気がした。
彩葉は、胸の奥に残った余韻を抱えたまま、ゆっくりと帰り道へ歩き出した。
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