第3話

三日目の放課後。

空は少し曇っていて、風が弱く吹いていた。

彩葉はゆなと別れ、いつものように昇降口へ向かっていた。


(……今日も、体育館の前に行くのかな)


自分でもよくわからないまま、足は自然と昨日と同じ方向へ向かっていた。

でも、今日は体育館の前まで行く前に、ふと足が止まった。


校庭のほうから、音が聞こえた。


最初は風の音かと思った。

でも、違う。


遠くから、ゆっくりと旋律が流れてくる。


(……音楽?)


彩葉は、校庭のほうへ視線を向けた。

部活紹介の準備なのか、吹奏楽部の先輩たちが外で合奏をしていた。


金管の明るい音。

木管の柔らかい音。

その奥で、太鼓の低い響きが支えている。


そして——


聞き覚えのあるメロディが流れた。


(……これ)


彩葉が好きなアーティストの、あの曲。

家で何度も聴いた、あのフレーズ。


胸の奥が、ぎゅっと掴まれたように熱くなる。


(なんで……吹奏楽で……?)


驚きと、嬉しさと、戸惑いが混ざる。

足が勝手に校庭のほうへ向かっていた。


近づくほどに、音がはっきりしていく。

彩葉の好きなグループのメドレーだった。


明るい曲、切ない曲、力強い曲。

全部が吹奏楽の音でつながっていく。


(……すごい)


胸の奥がじんわり熱くなる。

昨日の太鼓の音とは違う。

でも、同じ場所に響いてくる。


校庭の端で立ち止まると、打楽器の先輩たちが見えた。

ドラム、グロッケン、シンバル。

それぞれが、曲の流れを支えている。


太鼓の音が、風に乗って彩葉の胸に届く。


(……あの音だ)


昨日、体育館で聞いた音。

同じ響き。

同じ温かさ。


彩葉は、しばらく動けなかった。

ただ、音を聞いていた。


曲が終わると、先輩たちが笑い合う声が聞こえた。

その光景が、なんだかとても遠くて、でも羨ましくて。


(……いいな)


小さく、心の中でつぶやいた。


自分でも驚くほど素直な気持ちだった。


彩葉は、胸の奥に残った余韻を抱えたまま、ゆっくりと校庭を離れた。

帰り道の空は、曇っているのに、どこか明るく見えた。

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