そらしたままでいたかった

@riiho365

そらしたままでいたかった

 恋は気づいたときに終わっていった。


 なんてありきたりな言葉をまさか自分が思い浮かべるなんて思っても見なかった。

 高校の同級生だった栞から連絡がきたのは、なんてことない平日。

 いつもと変わらない繰り返すだけの仕事を終えて、なんとなく入れてる婚活アプリを開いて、メッセージを横目にSNSを開く。新作アニメの話題と芸能人の不倫とあとよくわからないお気持ちポストが流れていく。

 仕事終わりークソすぎ案件死ね今日は飲むしかない

 ひとこと呟くことはこんなに簡単なのにアプリに届いてるメッセージに返事するのは気力が必要で、適当な居酒屋に行って、メインとつまみを頼んで、ハッピーアワーで安くなっているハイボールも注文する。

 つまむものもないのにハイボールだけ即届いて、とにかくアルコールが欲しかったからすきっ腹を気にせずでさっさとの身体に流し込み、アプリを開いた。

 案内に流されるままにいいねを押して、新しくいいねをした人たちあてにコピペメッセージを送る。

 いくつか返ってきてるメッセージにも適当な相槌を打って、飲みの予定を入れていく。

 同世代、収入記載ある人、離婚歴なし。

 みんな同じに見えるし、誰が好きもないけれど、なんとなくやらないといけない。

 焦る気持ちを抑える義務みたいなもの。

 結婚って言う普通の人が普通にこなす行事を無理やり自分に当てはめてこなそうとしている。

 婚活アプリでのやり取りがひと段落して、意を決してメッセージアプリを開く。

 流れていったメッセージを下っていくと、栞のメッセージがまだ未読で残っていた。

 受信日時は三日前。

 ちょっとだけ見える文章には「ありがとう! 会えるの楽しみに」なんて書いてあって、そのあとは分からないけれど、多分そんなに長くなくて、会話の終わりを告げるだけのもの。

 読んでも読まなくてもどちらでもよさそうなさしあたりのないメッセージ。

 読んだら終わっちゃうから読めてない。

 認めちゃう気がして読めてない。

 結婚、しちゃうんだあ。

 ハイボールのジョッキを持ったまま、ぼんやりとスマホの画面を見つめる。

 栞に彼氏がいるなんて、知らなかった。

 栞は高校時代の同級生で同じ大学に行った。社会人になってからちょっとだけ疎遠になって、でも定期的には遊んでいたから仲は良くて、恋人とかそういう話はしなかった。いないはずの人の話題なんて上がらなかった。仕事が忙しいと愚痴る栞とお酒を飲みながら推しの話をして、時間忘れて喋り続けた。

 なのに。

 栞には結婚したいって思う交際相手がちゃんといた。

 いつだったか天気が悪くなって、そしたら栞がどこかに連絡していた。実家を出て職場近くに引っ越した栞が、雨が降ってるからとわざわざ連絡する先が誰であるかを私は聞かなかった。

 いっしょに住んでるのかもしれないって言う可能性に気が付かないふりをした。

「良かったらご注文お伺いしましょうか?」

 いつの間にか空になったジョッキを見つけたらしい店員さんに声を掛けられて、ハイボールお願いします、とジョッキを差し出した。別に飲みたいわけじゃないけど、別の酒を飲むと悪酔いする気がした。

 スマホを手に取ってSNSを開いた。指輪と婚姻届が写った写真が流れていって、発信者を確認しないままアプリを落とす。無機質に並んだアイコンの未読メッセージのお知らせを見るのも嫌で画面を伏せて届いたハイボールを思いっきり煽った。

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