まちがいだらけの怪盗事件【2000文字】

有梨束

見事、お宝を盗んできたはずなんだけど…

「大成功〜!」

「スペードさん、フォローありがとうございました!」

「いや〜、ダイヤくんの囮が良くてな!」

「いやいや、クローバーさんが綿密に計画してくれたおかげッス!」

3人は互いを褒め合って、にんまりした。

「何はともあれ、こうして『トランプの宝石』が手に入ったわけですし」

クローバーの掛け声と共に、3人はグラスをぶつけ合った。

「「「乾杯〜!」」」

一仕事終えた後のいっぱいは、いつだって格別だ。


ここは、彼らが使っているアジト。

たった今、とあるお宝『トランプの宝石』を力を合わせてくすねてきたところだ。

彼らは、チームを組んだ怪盗集団『フォーハート』。

世界中のお宝を手に入れるために、意気投合した集まり。

机の上には、トランプの形をした幻の宝石が燦然と輝いていた。


夜はこれから、お楽しみもこれから。

なのに、なぜだか3人とも様子が変みたいです…。


「儂らが徒党を組んで、早半年」

「ええ、でも互いのことはあまり知らないまま」

「そりゃあ、怪盗同士ッスもん」

「ええ、それもそうですね。…けど」

牽制し合うみたいな、ジリジリとした緊張感が走ったかと思うと──。

「「「捕まえたっっ!!!」」」

ガシャン、と派手な音が重なったのだった。

「「「え…?」」」

全員の目が点になった。

なんと、クローバーがスペードの右手に、スペードがダイヤの右手に、ダイヤがクローバーの右手に、それぞれが手錠を嵌めていたのだ。

しかも手錠の反対側は、嵌めた人の左手にしっかりかかっている。

3人は円を描くように繋がった。

「ど、どういうことですか!?」

「なんスカ、これ!」

「何を考えているんだっ!」

それぞれが喚いたり怒鳴ったりするもんだから、もうしっちゃかめっちゃか。

クローバーがスッと手を挙げて、2人が静かになるのを待ってから話し出した。

「ダイヤさん、どうして僕に手錠をかけたかお訊きしても?」

「あなたが怪盗だからッス」

「それはみなさんもそうでしょう?」

「じゃあ、なんで君は儂に手錠をかけているのかね」

スペードがクローバーにかけられた手錠を見せつけるように掲げた。

クローバーはふうと息を吐くと、真っ直ぐに見据えた。

「…僕は1の国の警察です。潜入調査の末、スペードさんが真の怪盗だとわかったので逮捕させていただきました」

他の2人はこれでもかというほどに目を丸くした。

「ええっ!?俺はクローバーさんが本物の怪盗だって確信してたッスよ!?あっ、俺は2の国の警官でして!」

「儂こそが3の国の刑事だぞ!そしてダイヤくん、君は怪盗だろう!?」

「俺は警官ッス!ほらっ!本物の警察手帳っ!」

「僕が警察ですって!」

「儂が刑事だっ!」

「「「…」」」

静かになった3人は、ゆっくりと顔を見合った。

「もしかして…」

「ここにいる全員が…」

「潜入調査中の警察官…?」

全員でいやいやいやっと首を振った。

だけど、もしそれが事実なんだとしたら…。

『トランプの宝石』が嘲笑うように、煌々と光った。

「そんな、まさか…」

微かに零れたクローバーの声に、3人はハモるように続きを喋った。

「ハートが確かな筋だって…」

「ハートが教えてくれたことなのに…」

「ハートが調べてくれたというのに…」

一瞬静寂があった後、再び顔を見合わせた。

「…今、なんて?」

「僕が信頼している情報屋の『ハート』という者からスペードさんが怪盗だと」

「俺が贔屓にしている探偵の『ハート』にクローバーさんが怪盗だって教えてもらって」

「儂が頼りにしている興信所の『ハート』がダイヤくんが怪盗で確定だと言っておって」

その時、近くでサイレンの音がした。

「警察ッス!」

「とりあえず保護してもらおう!」

「ちょっと待ってください!僕らは全員警察官だったんですよね!?」

「そうッスっ」

「じゃあ、この中に怪盗は1人もいなかったのに、盗みを働いたってことですか…?」

「あ…」

「それって潜入調査じゃなくて、ただの泥棒なんじゃ…」

3人は同時に息を呑んで、ぎゃああ!ともっと騒いだ。

繋がった手錠が、ガチャガチャと音を立てる。

「まずい!ただの犯罪ッスよ!」

「どうしましょう!?」

「一旦逃げよう!ああ、もうっ、なんで手錠し合っているんだ!」

「急げッス!」

「わっ、『トランプの宝石』どうします!?」

「置いてけ!あとから来た警官が返してくれるさっ!」

「っていうか、ハートって何者だったんでしょう!?」

「今、それいいからっ!」

「早く!捕まっちゃいますッスっ!」

ドタドタとアジトから3人の姿が消えて、そこへ1人の男が優雅に入ってくるのだった。


「ほう。これぞまさしく、私が望んだお宝だ」

その男は『トランプの宝石』を手に取ると、満足そうに懐にしまった。

「ふふふ、私の情報はうまく作用したようだ。あの3人にはいつかお礼をしないとね」

月明かりに、不敵な笑みが照らし出されていた。

「私は、怪盗ハート。踊らされていた彼らを楽しんでいただけたかな?」

そう言葉を残して、怪盗はいなくなった──。



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