勇姫
休み明けの月曜日、
蒼馬は緋心に会うのが怖くて
母に学校まで送ってもらった。
席についてスマホをいじっていると
思い切り肩を叩かれた。
振り返ると、笑顔いっぱいの
緋心がいた。
緋心「おはよ!今日は車で来たの?
電車、一人でつまらなかったよ。」
蒼馬「おはよ、寝坊しちゃってさ…」
緋心「あ!本当だ。寝癖みっけ!」
蒼馬の寝癖を指さし、悪戯に笑う
緋心を見て、ほっとしたのと同時に
罪悪感を抱く。
窓際の友達の元へ走っていった緋心。
楽しそうに笑う彼女は、
朝の日差しと相まって
とても眩しかった。
椅子の前足だけを浮かせ、
後ろに体重をかけながら座って
しばらく彼女に見とれていると、
緋心が左手首の腕時計に手をやり、
押さえ付ける仕草をした。
その仕草は、少女が過去に
やっていたと言われる癖と同じだ。
蒼馬は驚いて、
椅子ごと転げ落ちた。
「おい!大丈夫か!」という声が
方々から聴こえる。
桐原と香取が起き上がらせてくれて、
指を目で追うよう指示される。
正しく目で追えたことを確認し、
気をつけろよーと茶化された。
そんなやり取りをしていると、
チャイムが鳴り
担任が教室に入ってきた。
正面を向くと、
神妙な面持ちをしている。
おはようございますと言い、
少し間を置いてから
言いづらそうに話し始めた。
担任「えー…白石苺花が、土曜日から
自宅に帰っていないと連絡がありました。
ご家族は連絡が取れず、警察に相談して
現在捜索をしているそうです。
何か知ってることがある人がいたら
教えてほしい。白石と連絡が取れた場合も
すぐに知らせてください。」
教室は動揺でざわついてる。
蒼馬は頭の中が真っ白になった。
思わず緋心へ視線を向けると
じっと担任を見つめていた。
その時、少しだけ開けられた窓から
風が入ってきて、緋心の髪が揺れる。
色落ちしていたインナー部分が
真っ赤に染まっていた。
あの夢で嗅いだ血生臭い匂いは、
緋心の髪から漂っていた。
あのインナーカラーは
殺した相手の血で染めているのだろう。
蒼馬は緋心が少女と同一人物だと
確信した。
まさか小学生の時に抱いた不安が
現実になるなんて……
どうしよう、父さん…と
近くにいるであろう、目には見えない
父に頭の中で語りかけた。
すると黒田が、
黒田「土曜日って…緋心たんの髪の毛
染めるって言ってなかったっけ?」と
後ろに座る緋心に話しかけた。
緋心「うん、土曜日に染めてもらった。
18時には帰ったよ。確か…男の人と
会うからって言ってた気がする…。」
この言葉を聞き、周囲は
『あの噂は本当だったんだ…』と
更にざわつき始めた。
行方不明の白石には少し前から
パパ活をしているとの噂があった。
皆がパパ活の相手と何かあったのだと
確信しているなか、
蒼馬だけが、緋心はこの噂を知り、
アリバイに使ったんだと思っていた。
そのまま緋心や白石と仲の良かった
女子は担任に別室へ連れられて行き、
残った生徒は自習になった。
警察に話そうにも、証拠がない。
何より、彼女には前科がない。
仮に、仕事柄警察が彼女の
過去の名前や顔を知っていても
名前な社会復帰のために改名され、
顔は当時より成長して変わる。
信じてもらえるはずがないのだ。
蒼馬は自習中、自分がするべき事を
必死に考えていた。
とりあえずは少し距離を保つ。
二人きりの電車内は危険だから、
母親に送迎してもらう事にしよう。
緋心は…
あのインナーカラーが色落ちしたら
また血を求めるだろう。
緋心が転校してきてからインナーが
色落ちするまで二ヶ月程経っている。
つまりあと二ヶ月後くらいに
次の被害者が出る。
それまでに何とか
証拠を突き止めないと。
蒼馬はそう決心した。
***
それから一週間が経っても
白石の捜索に進展はなかった。
お昼休みには、こんな会話が
聞こえてきた。
黒田「ねー。苺花まじで大丈夫かなー。
一切既読つかないし、電話も出ない。」
紺野「だからパパ活なんてやめろって
言ったのに…。楽して稼げる仕事なんて
ないんだからさ。バイトするのみ!!
あんたらもだよ。私の忠告で辞めて
正解だったでしょ。感謝しなね。」
緋心「白ちゃん以外にもパパ活なんて
やってた人いるの?」
黒田・梶白「「すみません……」」
蒼馬はこの会話を聞いて、
次は黒田か梶白が狙われると思った。
また緋心にとって都合のいい
アリバイが見つかってしまった。
次こそ思い通りにさせない。
未然に防いでみせる。
とにかくヒントを得なければと
毎日緋心を目で追い、
彼女が誰かと会話をしていれば
聞き耳を立て、メモをした。
***
1ヶ月後、白石のスマホが自宅付近の
河川敷で見つかったという。
緋心の証言通り、スマホからは
18時以降に男性へ連絡を取り、
会う約束をするやり取りが見つかる。
待ち合わせは1時間後だったが、
白石側から着信を入れていて
そこでやり取りは終わっていた。
相手の男性は警察の調べに
「会う約束はしたが、電話が来てやっぱり
会えないと言われたので会っていない」と
話したという。
緋心が白石の携帯を操作し、彼に
捜索の目が向くよう仕向けたのだろう。
この男性はどうなってしまうのか。
もし捕まってしまったら…
蒼馬は何か掴めないかと
毎日悩んでいた。
今日はこの後、調理実習。
それぞれ調理室に向かい、
エプロンと三角巾を付けた。
緋心は真っ赤なエプロンを着ている。
男子達は貴重なエプロン姿に
デレデレしているが、
蒼馬はその姿すらも
返り血が目立たないようにか、と
思ってしまう。
蒼馬と緋心は隣の班だった。
調理の合間は、
彼女が何かしないように
頻繁に様子を伺っていた。
なにしろ、包丁を持つのだから。
黒田「緋心たん、玉ねぎの皮を向いて
みじん切りにしてー。」
緋心「うん!わかった。」
元気に返事をした彼女は
包丁の柄を握りしめるように持ち、
刃先を地面に剥けた。
蒼馬は慌てて緋心の元へ走り、
包丁を持つ右手首を押さえつけた。
緋心「ちょっ…蒼馬くん?!何!?」
蒼馬「何じゃないよ!そんな持ち方して。
危ないだろ!人でも襲う気か!」
蒼馬の注意する声が響き渡り、
調理室に緊張が走った。
黒田「ちょっと!何その持ち方!
もしかして料理したことないの!?」
緋心「ごめーん。緋心、料理出来ないの。
カップ麺しか作れない!」
紺野「それ料理じゃないし!」
このやり取りで、周囲に笑いが起きた。
緋心は紺野を真似て包丁を握り直し、
無言で背を向け、自分の班に戻る
蒼馬を睨みつけた。
放課後
階段を降りて玄関へ向かっていると、
階段の踊り場に緋心が立っていた。
緋心「蒼馬くん。話があるの。」
蒼馬「ごめん、迎えが来るから。」
緋心「ちょっとだけ。お願い。」
そういうと、蒼馬を手招きし、
屋上に向かって歩いた。
屋上に着くと、緋心は空を見上げて
大きく背伸びをした。
ふぅ…と、一呼吸置き、
緋心「調理実習の時……怖かったよ。
どうしてあんなに怒ってたの?」
と、上目遣いで聞いてきた。
蒼馬「初めて見たから、あの持ち方は。
料理が出来ないって言ってたけど…
普通に生きてきたらあんな持ち方しない。
あれではまるで…人の上から刃物を
振り下ろす、殺人犯の持ち方じゃないか。」
[殺人犯]という言葉を聞き、
緋心は左手首の腕時計を押さえつけた。
蒼馬「その癖。昔のままなんだな。
治ってない。まあ、治ってないのは
癖だけじゃないみたいだけど。
そうなんだろ?勇姫。」
蒼馬は緋心のファンが名付けた
名前を呼んでみせた。
すると、ずっとにこにこしていた
緋心は一瞬固まり、ゆっくりと
真顔になった。
緋心「お前、どうやって知った?
誰も俺を知っているはずないのに。」
そう言い放った彼女の声は
普段とは違い、男のようだった。
一人称も俺になっている。
表情はまさに鬼の形相だ。
一瞬でも隙を見せたら殺される…
そう思ってしまうほど、
全身で、爪先まで殺意を感じた。
蒼馬「小さい時から少年犯罪を調べるのが
趣味だったんだ。数ある犯罪の中でも、
あんただけは特別印象に残っている。
10歳…小学4年生の女子が父親を殺害。
正当防衛だとしても、不思議だった。
大の大人に女児が勝てるわけがない。
それに、周りの庇い方が不自然に
感じた。口裏を合わせたかのようで…
でも今日わかったよ。俺がずっと
抱いてた違和感は間違ってなかったって。
勇姫。お前、正当防衛じゃないだろ。」
蒼馬に問い詰められ、
緋心は不気味な笑い声をあげる。
緋心「きゃはははははははは!!!!!!
同い年にファンがいたなんて!びっくり!
ねえ、嬉しい?目の前に本人がいるのよ。
同じ高校に通うなんて夢みたいでしょ。
これって奇跡よね、ううん、運命かな?
…世界でたった一人なの、蒼馬くん。
あなただけよ。私の全てを知っているのは。」
緋心は蒼馬の両肩を指で撫でながら
甘い声で囁いた。
そして、コソッと
緋心「だから、殺すしかないよね」
と耳打ちした次の瞬間、
とても女だとは思えない力で
首を絞めてきた。
蒼馬が必死に抵抗していると、
屋上の入口付近から物音がした。
緋心は残念そうな顔をして手を離し、
蒼馬の腹を蹴り飛ばした。
背中を打ち、痛みで固まっていると、
担任がドアを開けて屋上に来た。
担任「いたいた。二人で何やってんだ?
青崎、お母さんが待ちくたびれてるぞ。」
蒼馬「先生、肩貸して!転んで背中を
痛めたみたい。玄関まで連れてってよ。」
担任「こんな何にもない所でコケるか?
ほら行くぞ。君も早く帰りなさい。」
緋心「……はーい。」
蒼馬は担任を盾にして逃げた。
緋心は、
担任に担がれて歩く蒼馬に対し
手をピストルに見立てて構え、
口パクで「バーン」と言い
撃つポーズをした。
不敵な笑みを浮かべながら。
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