第6話 猿渡の場合 中編

「スポーツクライミング?」

「ハイ。今回カラレギュレーション追加サレマス。ハンドリース、OKナリマシタ」


 グレッグはパラのスポーツクライミングの選手でリードを専門にしていた。

 元々健常者として強化選手に選ばれる程の実力者だったが、交通事故により両腕を失ってしまったのだ。


 ハンドリースは日本のみならず世界中に普及しつつあり、その注目度をあげる為に、世界規模のスポーツ大会で義手として、ハンドリースが使えないかという試みが持ち上がったのだ。


 既に多くの種目でハンドリースの採用がされた。スポーツクライミングもその1つだった。

 元々凄まじい負荷のかかるクライミング競技は、専用の義手の開発が難しいとされていたが、デバイスを固定さえすればいいハンドリースはお誂え向きだった。


 リース・コンビ部門として、手を貸す側、手借りる側、2人を選手として登録する。

 グレッグはそのコンビにと、センターに事情を伝え、遠路遥々猿渡に会いにやってきたのだった。


「サルワタリ。アナタノ手、スバラシイ! スゴク!」

「へへ……ソリャドウモ」


 手放しの賞賛に、猿渡は鼻を擦り照れ隠しをした。


 グレッグの言うには、いざコンビ部門への参加を志したはいいが、クライミングという競技の特殊性からなかなかよい手の持ち主は見つからなかった。


 現役の競技者をコンビにするのは禁止であった為、引退者か素人から探す他なかったが肝心な伝手もない。


 そんな中見つけたのが、猿渡だった。

 フリーリースでたまたま見つけた猿渡の手で実際にボルダリングに挑んだところ、かつての自分の手のようにすいすいと身体が持ち上がったのだ。


 グレッグは猿渡の手にすっかりと惚れ込んでしまったというわけだ。


「I need you. サルワタリサン。アナタノスケダチガヒツヨウデス」


 猿渡は元来気のいい男だ。こんな風に真っ直ぐに頼み込まれたら断る気は全く起きなかった。


「いいぜ、グレッグ。ただし俺の手を使うんだ。当然優勝してもらわなきゃあならんぜ」

「オフコース! アタリマエダノクラッカー!」

「ブハッ。いつの時代のネタだよそりゃあ」


 変に日本被れのグレッグにひぃひぃと腹を抱えた猿渡は涙を浮かべた。

 

「あ、それとな。グレッグ」

「ナンデショウ?」

「助けがいるときの日本語はスケダチじゃねえよ」

「Oh! デハナント?」

を貸してくれって、そう言うんだよ」


「ハンド・リース・プリーズ」とカタコトの英語で猿渡が笑うとグレッグもつられてニカッと歯を見せた。

 

 







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