第2話 金策
灰が降り出して数日経ったが、収まることをしらない。ずっとわしがいるために、女房はイライラを募らせている様子だ。
でも、わしが悪いわけじゃない。灰が降るのが悪い。家にかかる灰を払ったところで天からのお天道様が降り注がないんだからなぁ。
日の光がないと米は大きくならない。やはり、米の収穫は諦めるしかないのかもしれない。どうしたらいいだろうか。わしは米しか作って事がない。
他の仕事をした方がいいかもしれないが、働き口もない。未来が見えない不安に、女房もイライラが止まらない。
「あんたぁ! どうにか稼いできてよ! 男は稼いでなんぼでしょ!」
「なんだこと言ったってなにで稼ぐってよぉ! 稼ぎ先もねぇわ!」
「家でジッとしてるからでしょうが! もう食べ物もないよ!」
家の備蓄庫を見ると、もうあと三日分くらいしかない。俺が食べないとしても、五日分くらい。そのくらいなら食べなくても生きていけるかもしれない。
「わしは飯いらねぇ! 外で食うわ!」
「なにをいってんだい!」
そのまま家を飛び出す。家にいても仕方ないことはわかっているから。ただ、どうしていいかわからねぇ。金も尽きてきた。
何も買えねぇ。
街をブラブラしていると、いい香りがする。
武士様達は貰っている金が違うからなぁ。良い食事をしているようだ。
くそがっ!
こっちは困ってるってのに!
くっそぉ。
スリでもやるか?
歩いているお侍さんに目星をつける。
腰に下げている巾着に視線を集中させる。
あれを取ればひと月は暮らせるだろう。
そうすれば、家族は楽になるはずだ。
お侍さんは隣のお侍さんとの話に夢中でこちらを見ていない。今がチャンスだ。ぶつかって、そのタイミングで腰の巾着を奪う。
距離がドンドン近づいてくる。
こっちには気づいてもいない。
すれ違うフリをしてちょっと近づいて当たるんだ。
心臓が激しく抵抗してきて、苦しい。
こんなにわしは辛い思いをしてまで金を手に入れようとしているんだ。
体よ。従うんだ。
『とうちゃん! お米おいしいね!』
『そうか? わしの作った米だからな!』
『ととー! おいち!』
『はははっ! そうか! いっぱい食っておっきくなるんだぞ!』
子供たちが米を食べておいしいと言ってくれた光景が脳裏に過ぎる。
わしは、家族の為に過ちを犯すんだ。
別に悪いことじゃない。
本当に、こんなことをして子供達は喜ぶのか?
犯罪を犯してまで米を用意して、わしは笑って飯を食えるのか?
女房はなんていう?
──ドガッ
考えているうちにお侍さんへぶつかってしまった。
しかし、何もできなかった。
「すみません。勘弁してくだせぇ」
「おう。気を付けろよ」
お侍さんをチラリと見て頭を下げる。
キリッとした顔の頬に傷のあるお侍さんだった。
歴戦の猛者のような雰囲気を醸し出していた。
でも、どこかで見たことがあるような。
いやいや、わしにお侍さんの知り合いなどいない。
気のせいだ。
もし、巾着を取っていたら命がなかったかもしれない。
自分のしでかしそうだった行いに体が震えた。
切られていたかもしれない。
体から血の気が引いてクラリとする。
息が苦しい。
ちゃんと空気を吸え。
「ぐふっ! はぁっ! はぁっ! はぁ。はぁ。はぁぁぁ」
辛くて胸からこみ上げてくるものが目から溢れてきてしまう。情けねぇ。あぁ。情けねぇ。人様の金を取ろうなんざ盗賊みたいなことをしようと思ってしまった。
路地裏へと逃げ込んで、建物の後ろで膝に手をついて地面を見つめる。目から零れ落ちる物は落ち着かない。とめどなく流れて来る。
どうしたらいいってんだよ。
米もできねぇ。
金もねぇ。
わしゃあ、一体どうやって家族を守りゃあいいんだ。
どうやって子供たちを、女房を食わせたらいい。
わしはどうでもいいわい。
雑草でも食って生きてやる。
でも、あの子らはまだ生まれたばかりも同然だぞ。
その子らに辛い思いしかさせられねぇなんて父親だ。
「くっ……うぅぅ……なさけねぇぇ」
どうにか働けるところがないか探してみるしかねぇ。
やるしかねぇよ。
涙を拭って立ち上がる。
頭下げて働かせて貰わねぇと。
家族は俺が守るんだ。
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