第11話 グレーウルフ


 グレーウルフはとにかく大きかった。

 見た目はオオカミなのだがサイズがライオン並みだった。

 遺跡を囲む堀には跳ね橋のような物はなく普通に道があって城門の前が小さな広場のようになっていた。そこにグレーウルフは溜まって門扉を引っ掻いたりしている。爆弾があれば一網打尽だ。


 そこで手製爆弾を投下することにした。


 この異世界にはまだ火薬は存在しない。だから俺がアポーツした。

 お徳用花火セットだ。

 そのままでは脅しぐらいにしか使えないが昭和の子供は悪ガキぞろいなのだ。爆発はロマンとばかりに火薬をほぐして魔改造を試み指や目を失くす事故をあちこちで起こしていた。

 そしていつしか最適のレシピが出回ることになった。そのやり方を特集し掲載したマンガ雑紙が発禁、回収される騒ぎにもなったっけ。

 良い子は真似しちゃダメだぞ。


 先遣隊には殺傷力を高めた手投げ弾ともう一つ火炎瓶を渡してあった。

 過激な人たちが大学紛争とか安保闘争でよく使っていたね。

 材料はシンプルで瓶と油と布だけ。これに威力を増す工夫をして完成だ。


 城門の上に整列した先遣隊員たちは新しいオモチャを手にした子供のようにワクワクしていた。

 ケンドー隊長の号令一下、いっせいに点火、投擲する。

 爆発と炎がグレーウルフの群れを吹き飛ばした。

 即死した個体はいなかったものの堀に落ちたり火の衣をまとったまま逃げ出したりした。

 あっという間の防衛戦だった。

 勝利の歓声を上げ逃げ遅れたグレーウルフにとどめを刺していく。

 門扉が少し燃えてしまったのでここだけ改善の余地ありだな。

 あとは燃えながら逃げていったのもいたのでちょっとだけ山火事の心配をした。



 後片付けもそこそこに簡素ながら歓迎会が開かれた。


「異世界の武器は恐ろしいな」

「マモルは頼りになると言っただろ」


 ケンドー隊長とダイは久々のお酒にありつけてご機嫌である。飲んでいるのはスコッチウィスキーだ。

 保管してあったとっておきの酒は少量だったので俺がアポーツして提供した。

 あっという間に赤ら顔になって見た目は完全に赤鬼だよ。

 最初はスモーキーな薫りに目を丸くしていたが気に入ったようでなにより。

 酒乱じゃないよな?


 俺が手にしているのはこの異世界の酒でどぶろくみたいだ。まさか口噛み酒だったりして。怖いから製法は聞かないでおこう。


「ねえ、どうして異世界人なのに私たちの言葉がわかるの?」


 串肉を片手にアグネスさんがもっともな疑問を投げてきた。


「俺にもわからない。神様のはからいかも」

「文字は読めるの?」

「文字? そういえば文字そのものをまだ見ていない」


 それを聞くとアグネスさんは串肉を頬張り残った串で地面に文字を書いた。


「アグネスは美人」

「わかってるじゃん」


 そう書いたんだろうが。

 ならばと「物部守はかっこいい」と書いてみた。異世界の文字だった。


「物部守はかっこ悪い」

「え?」

「はは、冗談ちゃんと読めるよ、物部守はかっこいい」


 なんとも日常生活に都合のよい変換がなされている。ではと漢字で名前を書く。何か切り替わったように漢字も書けたがこれは読めなかった。


「謎のシステムだけど便利だからいいか」


 こういった検証は学者肌向きだ。俺はどっちかといえば人様の成果を応用する側だ。


「ねえ来て、読んでほしいものがあるの」


 アグネスが袖を引っ張る。

 若い娘さんに誘われたらホイホイついていくに決まってるじゃない。

 そして壊れた石造りのアーチへと連れてこられた。


「これ読める?」


 石に彫り込まれた文字をしめした。

 風雨で薄くなった文字にはこう書かれていた。


「稲荷神社」


 ええーっ!

 よく見ればアーチは鳥居っぽかった。

 どういうこと?

 待て待て慌てるな。

 なるほどそういう映画もあったもんな。ラストシーンで埋もれた自由の女神像が出てくるやつ。

 誰の夢か知らんがきっとそれを参考にしたんだと自分を納得させる。


「すごい普通に読めるんだ。で、イナリジンジャって何?」

「神殿というか神様をまつってある場所だよ」

「へえー」

「他にも文字の彫ってある場所はある?」

「どこかの地下に読めない文字があるってケンドー隊長が言ってた。真っ暗だろうから私は行ったことない」


 照明といえば松明だから気軽に入って行く気にはならないだろうね。というかこの遺跡は地下まであるんだ。

 ケンドー隊長はもう酔っているから明日にでも案内してもらおう。


 しかしお稲荷さんとはね。

 商売繁殖のイメージしかないわ。元々は五穀豊穣の神様だっけ?

 ジャッカルが日本にはいないからキツネになったとか。いやキツネは神様の使いだったか?

 どうにもあやふやな知識だ。


 まさかキツネに化かされているというオチじゃないよな。

 今ではとんと聞かなくなったが俺が子供の頃はあちこちでそんな話をしていたもんだ。身近な人間からそういう体験談をされるといやでも信じるしかなくなる。


「くわばら、くわばら」











 

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美人すぎる国会議員と行く異世界旅 伊勢志摩 @ionesco

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