第5話 一億分の一

 ※第三者視点

 

「では転移者82人の内訳をご説明申し上げます。男女それぞれ41人ずつ」


 担当者は何事もなかったかのように粛々と得られた事実のみを報告していく。


「大まかに分けて

 0才から14才の若年層が21人

 15才から64才までの中間層が53人

 65才以上の高齢層が8人と計82人。

 このうち高齢層は男性3人女性5人と片偏っているのは平均寿命の差と考えられます。これらは世界の人口構成比とピタリと一致します」

「つまり適当に選んじゃいねーと」

「本部長のおっしゃる通り世界人口約82億から一億人に一人の割合で抽出されたようです。さらに人種、国籍、生活圏なども加味している可能性も高く……」


 このあと転移先についても報告されたが異世界の地理が不明なため砂漠地帯らしきところ、ツンドラ地帯らしきところと曖昧な表現に終始していた。

 死亡者たちの死因は過酷な環境に餓死や凍死、事故死した者が大半だが獣などに襲われた例もあった。

 運良く異世界人の街や村に転移した12人のうち6人は捕らえられたり保護されたが残り6人は殺された。理由は不明だが突然現れた異形の地球人に未開の迷信的な動機がはたらいたと推測された。


 異世界人の容姿は様々でファンタジー要素満載のエルフ、ドワーフ、ホビットからリザードマン、ケモ耳の獣人までいたが今のところホモ・サピエンスは未確認だ。


 文明レベルはそれこそ『なろう小説』の異世界テンプレから引っ張ってきたかのような中世ヨーロッパを基本にした発展具合に見受けられる。

 

 生き残った52人のうち高齢層は物部守ただ一人で異世界の厳しさがうかがえる。

 注目を集めたのは密林に転移させられた最年少0才児とおぼしき赤ん坊だった。

 いまだ誰の子かも判明していない裸の赤ちゃんの性別は男で1週間を経過した今も生存している。

 密林に巣食う未知の動物や鳥たちが集まり代わるがわる世話をするという、まるで仏教説話に出てきそうな場面が展開されていた。

 庇護欲をかき立てるなんらかの超能力ではと思われる。

 赤ん坊には森を意味するシルヴァという名前が仮に付けられ、その能力はベイビーエフェクトと呼称された。

 SNSでは権利的にヤバそうな『シルヴァのファミリー』として人気沸騰中だ。


「各国と情報を共有し協議する国際機関の設立準備が始まりました。その手始めとして現在までに判明している転移者の氏名、年齢、経歴および特殊能力の簡単な一覧は以下の通りです。なお〇と●はそれぞれ生存と死亡を表しています、」


 麻生田本部長とシロミは目を一瞬だけ目を輝かせて特殊能力一覧をながめた。


 〇物部守…… アポーツ 物品引き寄せ 見たことがある物を出現させる

 〇シルヴァ…… ベイビーエフェクト 庇護欲発現 対象者を守らせる

 ●…… フィンガートーチ 発火 指先に火をともす

 〇…… チルタッチ 冷気放出 手の平から冷気を出す

 〇…… アフターイメージ 残像 自身の分身が数秒だけ現れる

 〇……パスウォーク 物体透過 短時間だけ無機物をわずかに透過する

 ●…… クレイモーフ 粘土操作 少量の土を自在に変形させる

 〇…… ハンガーサプレス 空腹耐性 長時間にわたり飲食を必要としない

 ●3Dジェネレート 3次元化 絵に描いたものを立体映像化する

 ●……

 〇……

 ……


(3Dジェネレート欲しい! じゅるり)


 シロミは立体化したい推しキャラを想像してヨダレを垂らしそうになっていた。

 よからぬ妄想を遮るように会議場が騒がしくなった。

 顔をあげるとモニタリングしていた物部守が異世界人とファーストコンタクトしていた。


 鬼人と大蛇の争いに介入した物部はあらかじめ入手していた拳銃、ニューナンブを大蛇に向けて撃った。

 頭部に着弾するシーンがカットインされる。


「ほう、動きまわる小さい頭に三つも当てたか。おい、物部に射撃経験は?」

「確認されていません。海外旅行の記録もないため未経験と推察されます」


 麻生田に問われた警察関係者が分厚いファイルをめくり答えた。


「ふん、たいしたもんだ」

「もしかするとテレビゲームとかをやり込んだクチかもしれませんね」

「ああなるほど、その線もあるか」


 自身も射撃経験豊富な麻生田が感心しきりだ。

 シロミも藪の中で悪態をつきながらもたついている姿しか見ていないので物部守に対する印象が少し変わった。


「それにしても落ち着いてやがる。ほかの転移者はみんな何かにつけパニクっているのに奴っこさんあんまり慌てた様子がない」

「とはいえあまり無茶をして死んでしまったら日本人全員が不妊になる可能性がありますのでそれは困りますが」


 シロミは少し物部守に興味がわいた

 画面では大蛇が退治され物部守は無事生き残った。今は鬼人たちと倒れている者の介抱をしている。

 その小鬼たちに向ける笑顔に屈託はない。


「物部守のより詳しいプロファイリングをお願いします」


 メンバーの心理学者に依頼し、さらに思いついて別件のプロファイリングも依頼した。


「世界中に配信されている『ゲミニス』のコンテンツを分析して編集方針や技法などからディレクターかなにかはわかりませんが神や悪魔のごとき発信者のプロファイリングはできませんか?」












 

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