第4話 異世界ライブ中継
※第三者視点
女性国会議員の
カーナビがテレビに切り替わったのか初老の男のよくわからない映像を流し始めた。
「運転中は見ちゃだめだよ」
後部座席からやんわり注意すると焦ったように助手席の秘書がカーナビを操作する。
シロミは手にしたスマホを持ち上げタッチしかけて固まった。
そこにはカーナビと同じ画面が映し出されていた。
首をひねりながら適当にいじっていたらシークバーをスライドしたようで、初老の男がいきなり叫びだした。
『チキショーめ! おっぱいプルンプルン!』
「こいつ、おえりゃーせんが」
下ネタの不意打ちをくらって思わず岡山弁が口をつく。
その動画は日本中のあらゆるモニターからいつでも閲覧可能だった。
電源さえ入っていればケーブルや電波など通信を遮断していても視聴できる超常現象といってよかった。
動画はライブ中継なのか初老の男のサバイバルを流してくる。
映像は垂れ流しではなくアングルの変更など多少の編集がほどこされていてなんらかの意思が介在しているのは確かだった。
さらに日本以外でも各国で別の人物を主人公にした動画が次々と配信されはじめた。
二つの月が浮かぶ世界はさっそくSNS界隈ではラテン語で「双子」を意味する"Gemini"から『ゲミニス』と名付けられやがて一般化していった。
✳ ✳ ✳ ✳
政府はただちに緊急対策本部の設置を決定した。
首相官邸に設置された「特異事象対策本部(仮称)」は科学者や軍事専門家、情報機関、心理学者など、各分野のトップを集めて、映像の真偽、検証と出現のメカニズム解明を最優先とした。
そのメンバーの一人にシロミは選ばれていた。
本部長はこういう漫画じみたことに詳しい麻生田副総理、重鎮中の重鎮である。
シロミは本部長補佐という役職になった。
特異事象対策本部(仮称)には大型のディスプレイがいくつも設置されていて画面の一部には常に『ゲミニス』の様子がモニタリングされていた。
「発信源や配信元というのは確認できません。まるで情報が突然『無』から湧き出しているかのようです。特定のIPアドレス、MACアドレス、それらが一切存在せず、また通常の電波や衛星通信が必ず持つ位相の揺れやエネルギー減衰の痕跡が皆無なんです。
まるで、地球上のあらゆる
「うーむ……」
学者の説明に麻生田本部長は大げさに腕組みして隣のシロミにささやいた。
「今のわかったか?」
「水たまりに月が映っているようなもので、水たまりをいくら探しても光源はないと、そういう意味かと」
「なるほどわかりやすい」
麻生田は破顔した。
「では水たまりの調査はそこそこにして次の報告」
「はい」
立ち上がったのは警察関係者だった。
「男性の名前は
物部守の簡単な経歴など身辺情報が読み上げられた。
「……特に超能力や霊感を持っているとかの話はありませんでした」
「なるほど『ゲミニス』に行ってから発現したようだな、そのー便利な何といったか……」
「アポーツあるいはアポートとか呼ばれる物品引き寄せの能力です」
すかさずシロミが助け舟を出した。
「それについてですが物部守さんの自宅を捜索したところ動画の物とまったく同じスキー用グローブとフィッシングブーツを確認しました」
動画内の物と発見したグローブとブーツの比較写真が映示された。
「コピーか」
(レプリケーション)
麻生田の言葉にシロミは無言でうなずきながら心でこっそり訂正していた。
会議が続き最後に発言した外務省関係者からの情報が衝撃をもたらした。
「全世界で同じような事例が確認されております。把握できているだけで82人ほど異世界に転移して実況中継されています。しかしながらすでに30人が死亡または生存確認不能となっています」
会議室がざわついた。
「日本および日本人においては物部守さんの映像がデフォルトでメインチャンネルとなっていますが他の転移者の様子を観ることも可能です。
しかしながらその死亡した転移者たちがメインチャンネルであった地域や人種では視聴そのものが不可能となっています。
どういう原理かその人たちがこの物部守のライブを観ても真っ黒で音声さえ聞こえないそうです。ただし録画映像はそのかぎりではありません。
さらに未確認情報ですが視聴困難者たちから新たに妊娠する者がいなくなったとの噂が流れています」
その言葉の真の意味を理解するのにしばらくの静寂が必要だった。
子供が産まれなくなった世界という絶望的な未来を想像したくなかったのかもしれない。
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