第6話 渡る世間に鬼族
幸いにも倒れている鬼たちの命に別状はなく気を失っているだけだった。
あの大蛇の毒液には目潰しと失神させる成分が入っているとのこと。
気を失っている間に食べられてしまうそうだ。
「毒をきれいにぬぐってやれば小一時間ほどで目を覚ます」
髭面の大鬼が暗い表情でそう言っていた。
さて小一時間とは地球時間に換算していいのだろうか?
この世界の時間単位などわからないが言葉が謎に通じているので同じような気がする。
ともかく先ほどからの様子で地球人と似たようなメンタリティを有していると確信した俺は小鬼相手に愛嬌を振りまいていた。
これでも小さな学習塾を兼ねた預かりサービスをやっていた事もあるので子供の相手は得意なのだよ。
俺たちが子供のころは学校の教室が足りなくて体育館を仕切ったり、プレハブ小屋を建てて臨時教室にしたり、さらには新しく学校を作った地域もあったもんだ。
それがまさかあっという間に少子化が進み経営が悪化してしまうとは。チャンチャン♪
塾を始めた時期が遅かったというのもあるんだけどね、本来あるべき第三次ベビーブームを潰した無能な政治家どもには恨みしかない。
しばらくすると気を失っていた鬼人たちも目を覚まし口々に感謝された。
しかし彼らの視力は完全には回復していなかった。明るい暗いの区別がつく程度らしい。
「元のように見えるまでは1週間ほどかかる」
髭面の大鬼ダイが教えてくれた。
ダイ・オオガ、オオガ一族の戦士で親族とともに移住する途上だとか。
ダイ夫婦、チュウ夫婦、ショウ夫婦、シン夫婦の四家族で子供はそれぞれ二人ずついる。
手抜きのような名前だけど長老の名付けだとのこと。なんとなく言葉の綾というか翻訳(?)の綾のような気がしなくもない。
それでだ、大人8人のうち6人が一時的にとはいえ目が見えなくなっている深刻な事態にダイの顔も曇るというもの。
「移住先まであとどれくらいなの?」
「普通に歩いて三日はかからないはずだがペースを落として五日といったところか」
「よしわかった、俺も同行するよ」
「すまないマモルさん、あんたがいれば心強いよ」
「ありがとうマモルさん、助かります」
口々に感謝の言葉をもらった。
袖触れ合うも他生の縁、旅は道連れ世は情けとはよく言ったもんだ。
こうしてオオガ一行と同道することになった俺だがそれはこの世界の知識を得るためでもあった。
また自分なりの仮説を検証するのに必要な選択でもある。
大量の荷物を背負い足元のおぼつかない親鬼たちは、子供たちに手を引かれ杖をつきながらも歩を進めた。
もちろん子供たちも手ぶらではない。背中の荷物から伸びた縄を小さなツノに引っかけている。こうするとすぐに荷物を捨てて逃げることができるらしい。
旅で股擦れ余は情けないことにそんな彼らからも置いていかれそうです。グスッ。
これでもちゃんと健康維持のため毎日一万歩は歩くようにしていたんだよ。
小休止をはさみつつ夜営場所へ向かう。藪漕ぎよりは楽だがそれでも足に疲れが溜まっていた。明日はゲートルを巻こう。
歩きながらオオガ一族とも交流し自分の身の上もすべて素直に話した。隠し事をしてもろくなことにならないと65年も生きていれば嫌でも思い知る。
胸襟を開いて会話して携行食を分け合い打ち解けていった。
「ツノのない人間はたまにいるがそれが異世界からの来訪者かどうかは知らんな。異世界なんて本当にあるのか?」
「そもそもエルフやドワーフたちにもツノはないですしね。ああ天国や地獄も異世界?」
「さらに付け加えるなら
チュウ、ショウ、シンがとりとめもなく話しを広げてくれたおかげこの世界の事がたくさん知れた。
1年は12ヶ月365日で閏年もあるという。予想どおり1日も24時間だが季節で長さが少し変わるという。季節も春夏秋冬ちゃんとあるそうだ。
ただ地理に関しては詳しい知識はないようでオオガ一族の支配地域のことしかわからないという。
「西隣のリザードマンが野蛮で年がら年中戦争を仕掛けて来やがって、おまけにここ3年ほどは干ばつ続きでついに村を割ることにしたんでさ」
「東に水の豊富な所があってそこを開拓することになったはいいけど凶暴な禍獣が多くてね。三つ首蛇のトリスネクやカットベア、グレーウルフにスウォーマ……」
「先遣隊が開拓の拠点を作っていてグループ分けした私たちのような開拓民を受け入れていく予定なんです。前途多難ですけど」
禍獣とは亜人種を襲う猛獣というような意味らしい。それでも帰りたいとか弱音は吐かない。
帰りたくとも帰れないのだから前進するしかない。
やっとの思いで夜営場所にたどりつくと休む間もなく設営を開始する。
テントなどはなくゴロ寝だが焚き木拾いやら食べられそうな草や実の採取、水汲みと仕事はある。しかもまともに動ける人数は限られているときた。
「マモルさんはアポーツ持ちなの?」
食事の準備中にダイさんの息子ケンちゃんが尋ねてきた。
「僕もアポーツ持ちなんだよ」
そう言って手の平に飴玉を1個出現させた。
「この前の誕生日に生えたんだ」
嬉しそうに教えてくれた。生えるって言い方がいいね。
そういえば道中、子供たちに何か配っていたがなるほどこれか。
偉いぞケンちゃん。
俺も何か出したかったけどまだ満ちていなかった。もうこの頃には何がどれだけ出せるか体感としてそれなりに把握できるようになっていた。
これもレベルアップしたといえるのだろうか。
仕方ないのでニューナンブを見せる。
こいつの威力は知っているのでケンちゃんは目をキラキラさせた。
うんうん、俺も子供の頃はチャンバラやテッポウごっこしたもんだ。毎日のようにテレビでは時代劇や西部劇を放送していたもの。
「ところで他にもこういった魔法みたいな能力エクストラだっけ、とかはあるの?」
「うん、あるよ。母ちゃんはフィンガートーチが使えるんだ」
見れば母鬼のアンズさんがちょうど焚き木に火をつけるところだった。指先からけっこうな勢いで炎が噴き出していた。
「ちなみに指先から電撃を出せるビキ……ううん、じゃなくての美人のお姉さんさんとかいない?」
「電撃?」
「雷みたいに光ってビリビリというかバリバリというか火花が散るようなやつ」
「いるよ! 先遣隊のアグネス姉ちゃん」
「そうかいるのか、嬉しいだっちゃ!」
「だっちゃ?」
気にするな少年、こっちの話だ。
しかしアグネスとはひねってきたな。
くくく、やはり俺の仮説は正しそうだ。
言葉は通じるし、食べ物も問題なし。文化や習慣もここまでは理解可能な範囲に収まっている
大前提として重力、空気が地球と同じとか偶然ではありえない。
「日常生活に不都合がない……ふふ、日常生活に不都合がないんだよ……ふははは、こんなデタラメな世界がありえるとすれば、それは……」
アニメ映画のセリフが何度もリピートして脳内再生される。もうこれは笑うしかない。
「……夢の中」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます