第3話 鬼が出るか蛇が出るか

 1週間がすぎた。

 俺はまだ藪の中にいた。

 植物は熊笹もどきから葦もどきへと変わって多少は歩きやすくなっていた。

 この景色はなんだか秘密基地を作って遊んでいたススキの原っぱを思い出すな。


 葦原をかき分けて進む俺のいでたちも靴はスニーカーからフィッシングブーツへと変わっている。

 あれから検証を重ねたところ、まず呼び出せるのは自分が肉眼で実際に見たことのある物に限定されることが判明した。

 だからテレビやカタログで見ただけの爆盛料理や便利グッズは入手不可能だ。

 そして数は一つか二つと曖昧だ。グローブは二つ一組で現れたし、カレーうどんも中身と丼に分けられる。

 今、俺の背中には毛布に包まれて丼やら皿やらが背負われている。

 箸はまだない。トホホ。


 あとあまり大きな物、重い物は無理っぽい。どのあたりで線引きされているのかは不明だが鉈は呼び出せずに鎌は呼び出せた。

 しかし鎌の切れ味が落ちてしまい灌木に引っかけた拍子に鎌首が抜けてしまったので、ものは試しと鉈を念じたら出現した。

 これは念の強さか、あるいは徐々にレベルアップしているのかどちらだろう。


 最後に生き物はどれだけ小さくても無理だった。犬や猫からハエや蚊にいたるまでかすりもしなかった。

 雑菌レベルではどうか知らんが少なくとも目に見える範囲ではできないようだ。


 そして俺はついに道らしきものにたどり着いた。

 道といっても獣道のような細いものだ。

 今までネズミのような生き物が横切るのは見たことがあるけれど、本当にこれが獣道でイノシシやクマのような猛獣に出くわすと怖いので鉈を構えて慎重に進む。

 やがて視界が開けてきた。

 ついに低木地帯を抜けたのだ。

 喜んだのもつかの間、怒声やら咆哮やらが聞こえてきた。


「果たして鬼が出るか蛇が出るか」


 1週間ずっと孤独な藪漕ぎをしてきたので刺激に飢えていた俺は不用意に近づいてしまった。

 そこにいたのは互いに殺し合う鬼と蛇だった。うーん、この!


 鬼は八匹ほどだ。刀剣などで武装しているがその半分はすでに倒れ伏している。

 対する蛇はニシキヘビほどの大蛇で体長は10メートルぐらいだ。まあ地球にもいそうなサイズだな。

 ただその大蛇の首が三つあり、それぞれやたらと毒を吐く。

 罵詈雑言じゃないぞ。

 物理的に毒液をまき散らすのだ。これがまたよく飛ぶ。

 地球にもこんな蛇がいたっけ。たしか牙から噴射したはずだ。

 この大蛇の場合、飛距離はピッチャーマウンドからホームベース間といえばわかりやすいか。

 それが顔面を狙ってオオタニ、ヤマモト、ササキという勢いでデットボールを飛ばしてくる。

 また一匹の鬼が悲鳴をあげてのけぞった。


 君子危うきに近寄らず。

 こっそりと高みの見物と洒落込むつもりだったが小鬼が茂みから顔を出して「父ちゃん、母ちゃん!」と泣きべそをかきながら叫んで「ケンちゃん、危ないから隠れてなさい!」というやりとりを見てしまった。


「ああっ!」


 気を取られた母鬼の顔に毒液がかかり悲鳴をあげて崩れ落ちる。

 その様子にたまらずケンちゃんと呼ばれた小鬼が駆け寄るとその後からぞろぞろと小鬼の群れが飛び出してきた。

 それぞれの親らしい鬼にすがりついて大声で泣きわめく姿は涙を誘う。

 ああそうだよ、歳を取るとこういう浪花節にめっきり弱くなってしまうんだよ。


「こっちだ! ギドラもどき!」


 俺は飛び出して大蛇の後ろから発砲した。

 ふふふ、ニューナンブだっけか駐在さんありがとう。

 うちの店は巡回経路の休憩場所になっていたのだよ。よくコーヒー飲みながら世間話をしたもんだ。

 蛇は頭を潰せというから三つある頭を端から順に狙い撃ってみた。

 5発撃って3発命中。頭一つにつき1発ずつ当てた。ダメージが入ったのか怒り狂い、凶悪な牙がいっせいにこちらを向く。

 両端は吠えちらかすだけだが真ん中のヤマモトは冷静に毒を吐きまくってくる。

 こっちは弾切れだってのに容赦ないぞ。

 なんで日本の警官は5発しか撃てないリボルバーなんだ。アメリカみたいにグロックとかショットガン持たせろよ。

 そんなわけでもう一丁ニューナンブを取り出した。『葉ワサビ亭』の海鮮丼を我慢した甲斐があったというもんだ。

 しかし俺が銃を構える前に蛇の首は三つともはねられた。

 髭面の大鬼が飛び込んできて目にも止まらない早業で剣を振るったのだ。

 引き金に指をかけたまま銃口を下ろし鬼と向かいあった。

 血走った眼と血刀は凄い迫力だ。

 大鬼は俺に軽く会釈すると足元でまだのたうち回っている胴体をまたいだ。


「ふん!」


 大鬼は剣を逆手に持ちなおし胴を突き刺す。心臓あたりを貫かれた大蛇は動きを弱めやがて止まった。

 

 


 

 

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