第2話 さらば年金
その日65才の俺は振り込まれているはずの
家業の鮮魚店を継いで潰し、あれやこれや開業、開店をしては廃業、転業、閉店を繰り返してきた俺の人生は失敗だらけだが面白おかしくもあり特に不満はない。
わずかな蓄えと年齢の割にまだ動けて働ける体、そこに年金が加わればもう少し楽な生活になるはずだった。
しかしATMのドアをくぐり画面にタッチしようとしたらなぜかもう異世界に転移していた。
「は? なんじゃこりゃ!」
まわりは視界のきかない藪に囲まれ頭上には抜けるような青空が広がり
ATMどころか背後の扉も何もかも消えているしこれはもう異世界だろ。
どれだけそこに突っ立っていただろうか。
いくら待っても叫んでも変わらない状況にようやく移動を開始することにした。
所持品は銀行カードの入った財布だけだ。
せめてスマホだけでもあればよかったのだがすべて愛車で中古の軽バンの中だった。
軽バンは貨物車だから丈夫で長持ちなうえに少し自動車税が安くていいんだぞ。
汗だくになりしばらく藪漕ぎをして力尽きた俺は傷だらけになった手をながめた。
せめて軍手、いやスキーに使っていたグローブがあれば。
すると光とともに愛用のグローブが手の上に現れた。
「はぁ?」
それはどう見ても自分が若いころ使っていたグローブだった。今はボロ屋の押し入れのどこかにスキーウェアとともにしまい込まれているはずだった。
ためつすがめつ観察してみたが使い古した自分のグローブに間違いなかった。
他にも何か出てこないか色々と念じてみたがなんのきざしもなく諦めた俺は立ち上がった。
やがて日が暮れ俺はよくわからない熊笹に似た植物の根元に精魂尽きてへたり込んでしまった。
とにかく腹が減り喉も渇いた。
「うどんが食いてえ……」
なんの気はなしにつぶやいたところ目の前に好物のカレーうどんが光り輝いていた。
「うおおーっ!」
丼は行きつけの『和辛子軒』のものだった。しかし箸がないのでこのままだと直飲みですすりこむしかない。気の利かないことだ。
その後どうやっても箸は現れず、熱々のカレーうどんを少しずつすすることにした。
ひと心地ついて「お冷や」とつぶやいてみたが何も起きない。
時計はスマホ頼りだったので持っておらず、正確な時間はわからないが前回のグローブ出現からおよそ5、6時間といったところか。もしかして時間縛りかもしれないのでひと眠りしてからもう一度試すことにした。
夜中、肌寒くなってきたのでうとうとしながら「毛布欲しい」と言ってみたところ毛布がふわりと被さってきた。やっぱり時間制限か?
このまま元の世界に戻れなければ残してきたあれやこれはどうなるのだろう。
行方不明者として処理され、所帯道具などに価値のある物はないのでゴミとして捨てられるだろう。わずかな貯金は親戚で分けあって終わりだ。
それにしても毎月毎月、爪に火を
「チキショーめ! おっぱいプルンプルン!」
俺は悔しさのあまり絶叫していた。
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